活動報告
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活動報告
第21回 研究セミナー報告
2024年6月15日(土)に、第21回研究セミナーをオンラインでのZoom形式で開催しました。今回は「QOL/PRO研究におけるAIの活用について」というテーマで2つの講演とパネルディスカッションを通じ、QOL/PROの研究および臨床現場での生成AIの可能性や現状での限界について、活発な議論が行われました。当日ご参加いただきました皆様、またご講演、パネルディスカッションにご協力いただきました方々に心より感謝申し上げます。
冒頭に本会の目的の説明が以下の通りありました。
1)生成AIであるNLP/LLMの基礎知識を得て、ソリューションの実用例を知る
2)QOL/PRO研究におけるNLP/LLMの活用について検討する
一つ目の講演では、倉敷中央病院救急科 田村暢一朗先生より、「ど素人が2か月間、自然言語処理(Natural Language Processing)とQOL-PROを勉強してみた」と題して講演いただきました。自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)が、人が会話をしている中で単語や文章を関連づけることと比較できることや、AIに対して正解文章で学習させることと文章の構築のための辞書(例:patient corpus)が重要であることについて、わかりやすく解説いただきました。NLPをQOL/PROの分野で活用できる具体的な場面として、QOL質問票作成の可能性について言及されました。臨床現場では、患者のケアプランを検討するためにAIを活かして患者インタビューでヒアリングした内容などを分析する可能性が示されるものの、現状では限界があり、より具体的で患者に個別化されたプランを作成するには関連情報を十分に学習させる、人が介入するなどが必要になることが示唆されました。
二つ目の講演では、ハッシュピーク株式会社代表取締役 前田琢磨さんより、「LLMとは?生成AIのこれまでとこれから」と題して講演いただきました。自然言語処理の様々な技術の説明から、医療への応用の具体的な事例までわかりやすく解説いただき、生成AIの大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)の深掘りをしていただきました。ここ数年でAIが大幅に進化していることや、意味が類似する言葉を関連づけるベクトル表現、モデルの精度の検討など言語モデルの構造に関する詳細なお話がありました。またQOL/PROへの応用については患者インタビューや会話から得られる非構造化PROの分析のお話や、生成AIの臨床分野での応用で実際のソリューションを紹介いただき、今後の生成AIの医療応用のポテンシャルが高いことが示唆されました。
パネルディスカッションでは、2つの講演内容を振り返りながら、臨床現場におけるQOL評価について、患者の課題を特定することが難しいためAIを活かせると有用であることや、一方では個別的に患者ケアのゴールを設定することを全てAIですることにはまだ課題があり、人が介入する必要性があることが議論されました。製薬企業が治験や臨床研究にQOL評価を用いることも少なくない中で、AI技術でのサポートニーズや課題についての意見もありました。PROのスコアリングに関して、数値化できる部分以外の、スコア化が難しい患者ナラティブの部分について、AIによる類似単語のカテゴリー化で人の負担を軽減させる可能性、またその他の活用の可能性について、異なる立場のパネリストの方々により多様な意見交換が行われました。
日本における研究や医療現場での生成AIの活用の事例はまだ限られており、今後も今回のような意見交換の場を通じて、患者利益・個別化医療に繋がり得る可能性が模索されていくことが期待されます。
ハッシュピーク株式会社
田中 恵理香
第19回 研究セミナー報告
2023年6月24日(土曜日)に、第19回研究セミナーをハイブリッド形式で開催しました。今回は、心理学の分野で注目を集めつつあるアピアランス<問題>をテーマに、QOL・PROとの関連性について検討する内容としました。アピアランス<問題>とは、可視的差異(visual difference)がある、または本人があると感じていることにより生じる、社会適応における困難さを指します。具体的には、いじめやからかいのほか、社会的回避や、社会的スキルの低下などを包含します。
またプレセミナーとして、次世代QOLPRO研究者会の本格的な始動を記念し、初学者の方たちを対象とした基礎講座を開催しました。京都大学医学部附属病院医療安全管理部/消化器外科の錦織達人先生から、「QOL研究をはじめるためのイロハ」という題でオンライン講演が行われました。臨床研究においては最初の研究デザインが肝要であることが述べられ、その方法論としてPICOなどの活用例が示されました。
セミナーの第一部では、アピアランス<問題>の基礎知識として、日本でのこの分野で先駆的な立場にある寺元記念病院形成外科の原田輝一先生から「アピアランス<問題>の成り立ち」、宮城大学看護学群の真覚 健先生から「アピアランス<問題>の対処方法(段階的ケア)」と題して講演がありました。
第二部では、アピアランス<問題>の臨床現場での実践として、国立がん研究センター中央病院アピアランス支援センターの藤間勝子先生から「悪性腫瘍の臨床現場における実践」、共愛学園前橋国際大学・東北大学病院の松本 学先生から「先天異常の臨床現場における実践」について講演がありました。成人例を対象とすることが多い悪性腫瘍では、認知の変容や社会的スキルトレーニングの重要性が述べられました。一方、成長と発達という特徴のある小児例を対象とする先天異常では、成長段階に合わせた患児のみならず家族への支援の重要性が述べられました。
第三部では、アピアランス<問題>とQOL-PROとして、アピアランス<問題>がQOL・PROにどのように影響し、それをどのように計測・評価できるのかについて、臨床現場で実用されているPROMを軸に講演がありました。岡山大学病院形成外科の雑賀美帆先生の「乳房再建におけるQOL-PRO:アピアランス<問題>と対峙し選択する女性を支えるために」では、乳房手術に特異的なPROMであるBREAST-Qを用いた国内外の研究が紹介されました。PROに基づく情報の蓄積と提供により、様々な治療選択肢がある乳房再建において、患者の意思決定を支援できる意義が強調されました。国立成育医療研究センター形成外科の彦坂 信からは、「口唇口蓋裂におけるQOL-PRO」として、口唇口蓋裂に特異的なPROMであるCLEFT-Qの妥当性評価研究の結果と、今後の展望を紹介しました。出生時から成人期に至るまで継続的な治療をうける口唇口蓋裂患者においては、成人期に至るまでに意思決定者が家族から患児に移行していく特徴があり、PROの活用により患児の意思表明や決定が支援できる可能性を提示しました。
当日は現地参加16名、オンライン参加47名の計63名の方にご参加いただきました。私たち誰もが当事者となりえるアピアランス<問題>について、QOL・PRO研究だけではなく日常の社会生活においても気づきを得る機会となったことを祈念しております。ご参加いただいた皆様、講演・進行と準備の労をいただきました皆様に、感謝申し上げます。
国立成育医療研究センター形成外科
彦坂 信
2022年12月24日 第10回QOL-PRO研究会学術集会報告
第10回QOL-PRO研究会学術集会が、2022年12月24日(土)クリスマスイブに開催された。COVID-19と天候の影響により、第8回・9回学術集会に引き続きWeb開催となった。年の瀬にもかかわらず、76名の方にご参加いただき、オンライン上で活発な意見交換がなされた。ご参加いただいた方々、ご講演・ご協力いただいた方々に、心より感謝申し上げます。
会場:オンライン開催
*プログラム(抄録集)のダウンロードはこちらから
<プログラム>
メインテーマ 「子どもと家族のQOL向上を目指して~多角的な視点から考える~」
会長講演 「子どもの発達段階に考慮したQOL研究の意味」
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教育講演 「日本語版KINDLR調査から考える日本の子どもたちの現況と課題―自尊感情に着目して―」
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一般演題
1)介護老人保健施設サービス利用者と医療者間のQOL評価ギャップ
2)局所進行口腔がん患者における簡易嚥下評価ツールEAT-10の有用性の検討―MASA-C, FOISとの比較
3)口唇口蓋裂の患者報告アウトカム質問紙「CLEFT-Q」の妥当性評価
4)消化器癌手術患者における術後後悔に関連する要因の検討
5)周術期運動栄養療法を受けた食道癌患者の根治手術後のQOL変化
シンポジウム 「小児がんの子どもと家族のQOL向上を目指して~多角的な視点から考える~」
1)「子どもと親のQOL尺度それぞれの特徴:得点の相違と解釈」
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2)「小児がん患児のQOL:多角的な評価を得てできること・わかること」
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3)「小児がんの晩期合併症とQOL」
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会長講演 子どもの発達段階に考慮したQOL研究の意味
演者 林田りか(長崎県立大学)
座長 錦織達人(京都大学)
近年、医療技術の進歩、医療資源のひっ迫、患者中心の医療への転換、健康に関するパラダイムシフトを背景として、疾病は否定されるものでなく、疾病や障害を持ちながら生活の質(QOL)を高めていくことの重要性が認識されるようになった。そのため、医薬品・医療機器の開発といった研究で、患者自身による主観的評価であるPatient-reported outcomes (PRO)やQOLがエンドポイントの一つとして採用されるようになっている。しかし、成人と異なり、小児のQOLやPROを評価し、向上させるためには課題が存在する。例えば、成長発達の時期に応じて、保護者による代理回答や年齢や状態にあった調査票の選定が必要である。また、きょうだいや学校教諭など、目的に応じて多面的に評価することも求められる。そして、調査票だけでなく、子ども自身の言葉や語りを傾聴することが大切である。本学術集会では、エキスパートの先生方の講義とディスカッションを通じ、様々な状況下にある子どもたちのQOLをどう向上させるのかについて考えていきたいと会長講演では説明された。
(錦織達人 記)
教育講演 日本語版KINDLR調査から考える日本の子どもたちの現況と課題―自尊感情に着目して―
演者 古荘純一(青山学院大学)
座長 彦坂 信(国立成育医療研究センター)
小児用の健康関連QOL尺度であるKINDLRの日本語版を翻訳作成された古荘先生から、その翻訳の、妥当性・信頼性評価といった基盤的な段階から、臨床での実用例に至るまで、幅広いお話があった。開発者の先生から直接に、一つの尺度の足跡を追体験できるような講演がお聞きできたことは、非常に有意義であった。
KINDLRの質問文を含めた詳細なご紹介の後に、臨床応用のお話があった。小学校から高校までの多数例を対象としたマクロ的な研究を通して、他国に比較して日本の子どもたちは自尊感情が低いことが明らかになったことを述べられた。個々の症例に適用したミクロ的な活用例の紹介では、KINDLRを用いることで可能となる洞察について紹介され、親の回答との対比、介入による変化などをご紹介いただいた。特に、ADHDの患児において、治療を通して落ち着きを取り戻し、クラスに適応していく中で、親や治療者の代理評価によるQOLが高まったのに対し、患児自身の評価によるQOLは低下していた症例が印象的であった。
最後に、日本の子どもたちの自尊感情が低い現状について、その打開策として私たち大人や社会が取り組むことのできる具体的なアクションを提示いただいた。QOL尺度を臨床の現場で課題の評価・抽出・対策に活用されている姿は、clinician-researcherとしてQOL-PRO研究に取り組む会員や、それを支える基盤的研究に取り組む会員にとって、学びの多い講義であった。
(彦坂信 記)
一般演題
演者 両部善紀ほか(老人保健施設エスペランスわけ)
田村優志ほか(東海大学)
彦坂 信ほか(国立成育医療研究センター)
木下裕光ほか(京都大学)
上野剛平ほか(京都大学)
座長 岩谷胤生(岡山大学)
一般演題のセッションでは5演題が採択され、活発な議論が行われた。第1席は老人保健施設エスペランサわけリハビリテーション部の早瀬友哉先生より「介護老人保健施設サービス利用者と医療者間のQOL評価ギャップ」についての報告であった。EQ-5D-5Lを用いて通所リハビリテーションサービス利用者(在宅)、入所者と担当医療者(作業療法士、介護福祉士)のQOL値のギャップを検討し、一致率は当初の予想より低く、また各項目で過剰評価 過小評価の傾向が異なることが報告された。ディスカッションでは、QOL値は一般日本人の価値観を反映した値であることや、今回の研究では担当医療者が対象者の生活を想像した上でEQ-5D-5Lに回答した点の指摘があり、担当医療者が専門家の視点からEQ-5D-5Lを評価した場合は結果が異なった可能性について議論がなされた。第2席は東海大学医学部専門診療学系口腔外科学の田村優志先生より「局所進行口腔がん患者における簡易嚥下評価ツール EAT 10 の有用性の検討」についての報告であった。Patient reported outcomes(PRO)評価ツールとしてのThe 10 item Eating Assessment Tool(EAT-10)と、Clinician reported outcomes(ClinRO)評価ツールとしてMann Assessment of Swallowing Ability Cancer(MASA C)と Functional Oral Intake Scale(FOIS) には有意な相関関係が認められ、簡易嚥下機能評価ツールとしてEAT 10が有用である可能性について報告された。引き続く検証研究の症例数設定について議論がなされ、引き続き本研究会の研究相談での検討をすすめることを推奨された。第3席は国立成育医療研究センター形成外科の彦坂信先生より口唇口蓋裂の患者報告アウトカム質問紙 「 CLEFT Q 」の妥当性評価について発表があり、主観的評価は整容・言語・咬合・飲食の面で CLEFT Q と概ね一致していた一方、客観的評価は整容および顎発育では一致を認めたものの、他の領域では一致度が低かった旨が報告された。第4席は京都大学消化管外科の木下裕光先生から「消化器癌手術患者における術後後悔に関連する要因の検討」について報告があり、消化器癌手術を受ける患者において、術前の医師への信頼と術後合併症は、術後後悔と有意に関連しており、医師の患者の価値観を共有する姿勢は、信頼を得るために有効である可能性について言及された。第5席は京都大学消化管外科の上野剛平先生から「周術期運動栄養療法を受けた食道癌患者の根治手術後のQOL変化」について報告があり、食道癌根治手術後は、周術期運動栄養療法を行っても身体を含む機能尺度が低下し、倦怠感や呼吸困難などは術後3ヶ月でも術直前のレベルまで改善しなかった旨の報告があった。今後、術後12か月での検証の結果が待たれる。
以上の5演題はいずれもしっかりと計画され実施された質の高い研究であり、活発な議論がなされた。
(岩谷胤生 記)
シンポジウム 「小児がんの子どもと家族のQOL向上を目指して~多角的な視点から考える~」
演者 小林京子(聖路加国際大学)子どもと親のQOL尺度それぞれの特徴:得点の相違と解釈
佐藤伊織(東京大学)小児がん患児のQOL:多角的な評価を得てできること・わかること
石田也寸志(愛媛県立中央病院)小児がんの晩期合併症とQOL
座長 林田りか(長崎県立大学)、錦織達人(京都大学)
「小児がんの子どもと家族のQOL向上を目指して~多角的な視点から考える~」というテーマでシンポジウムが開催された。
1題目は聖路加国際大学の小林京子先生より「子どもと親のQOL尺度それぞれの特徴:得点の相違と解釈」との演題でご講演いただいた。子どものQOL評価の歴史や活用法、子どもの権利に伴うPROの重要性などを述べられた。子どものQOL評価に影響するものとして発達・タイムスパン・子どもに特有な生活価値、意思決定能力など実施された研究データとともに詳しく説明された。そして、子どもの自己評価と親の代理評価の相違と解釈について検討した結果を述べられ、改めて研究目的や対象年齢による調査票の選定と的確な解釈の重要性を再認識した。
2題目は東京大学の佐藤伊織先生から「小児がん患児のQOL:多角的な評価を得てできること・わかること」との演題でご講演いただいた。PedsQL脳腫瘍モジュール日本語版の紹介と、自己および保護者評価には一致および不一致な部分もあり目的に沿って定義し議論する必要があること、親子の評価は互いに補完的に利用・解釈するものであり、解釈するためにはそれぞれの評価(視点)が持つ特徴をあらかじめ明らかにしておくと良いなど、研究結果を踏まえて詳細にご説明いただいた。子どもを中心としたQOL研究の重要性と多角的評価の難しさを実感した。
3題目は愛媛県立中央病院の石田也寸志先生から「小児がんの晩期合併症とQOL」との演題でご講演いただいた。石田先生は小児がんと子どものQOLに関する研究の権威であり、本学術集会でお話を聞けたことは非常に幸運であった。小児がん経験者とそのきょうだいを対象とした晩期合併症の実態把握と治療の質・生活の質を評価した結果や、造血幹細胞移植を行った小児のQOL研究の結果など、膨大なデータをもとに説明された。適切なQOL尺度の選択やQOL研究におけるバイアス、PROの結果を専門職と共有することにより、生存率改善のための良きツールに使用することの重要性を感じた。
子ども自身のQOLを測定することは、子どもの年齢や発達の違いによりかなり困難である。しかし、子ども自身や親、きょうだい、医療従事者、その他専門職から、様々な調査票やバイオマーカーなどを活用して多角的な視点から一人の人物を評価する点では、QOL研究を行う者にとって共通する課題である。QOL研究を行う研究者にとって、大変貴重な学びの場になり、大切なクリスマスのギフトになったと思われる。
(林田りか 記)
第17回 研究セミナー報告
令和4年9月10日、第17回研究セミナーを完全webで開催しました。電子デバイスの普及により、患者と医療者の新しいコミニケーションツールとしてelectronic patient-reported outcome (ePRO)を医療分野に用いようとする取り組みがなされています。これらの情勢を鑑み、本セミナーのテーマは「がん診療におけるePRO活用の取り組み」とし、がん領域でのePRO monitoring (ePROM)の世界情勢、わが国での取り組みなどを紹介し、ePROMの現状と課題への理解を深めることを目的としました。
セミナーは2部構成としました。第1部では、がん診療におけるePROMの国際動向を主テーマとし、関西医科大学の木川雄一郎先生より講演賜りました。講演では、木川先生がePRO研究の実績として、EORTC QLQ-C30のePRO versionの作成を計画し、実現を模索していたところThe Computer-based Health Evaluation System (CHES)(https://ches.pro/)の存在を知り、このシステムを利用したePROのvalidation studyを実施、論文化(Breast Cancer. 2019;26:255-259.)までの経緯をお話しいただきました。またその頃より、国際的にもePROMのランダム化比較試験の結果が公表され、QOLのみならず全生存期間の延長効果が示されたこと、このエビデンスに基づきESMO (European Society For Medical Oncology)よりがん診療におけるePROMsのガイドラインが公表されたことを紹介いただきました。同ガイドラインではがん薬物療法期間中のePROMは患者アウトカム改善の観点から強く推奨されていること、ただし利用するePROMシステムは有効性が検証されていることが必要であることなどを教えていただいました。
第2部では、国内の研究動向を主テーマとし、まず慶応大学の林田哲先生より、LINEアプリを利用したePROMの開発経緯、validation studyの結果、将来構想や新たな研究について講演いただきました。林田先生らの開発したLINEアプリは簡便かつ汎用性が高く、高齢者でも十分利用可能であることを教えていただきました(Cancer Sci. 2022;113:1722-1730)。また、日々蓄積される臨床情報・ePROデータはビッグデータとなるため、その解析にAIを用いるなど先駆的な取り組みを紹介いただきました。次に岡山大学の鈴木陽子先生より、独自に開発したEmoji Stickers Scale (ESS)のvalidation studyの結果を講演いただきました。日常的にePROMsを実施しようとする場合、そのシステムは患者さんにとって簡便でわかりやすいことが大切という視点から、鈴木先生らは文字ではなく愛らしい絵文字による健康状態の報告スケールを開発されました。ESSはPRO-CTCAEと同等のtest-retest 信頼性を示し、網羅性、理解度等の内容妥当性の観点からも優れたスケールであることを示していただきました。最後に、現在国内で実施されている、がん領域におけるePROM研究について私から報告させていただきました。UMIN, jCRTの研究データベースから、現在9つの観察研究、4つのランダム化比較試験が進行中で、そのすべてが癌薬物療法の有害事象モニタリング研究でした。各々の研究の目的は、免疫チェックポイント阻害剤や薬剤性肺障害など薬剤の特性に特化したePROM研究、離島・僻地など医療過疎地における医療の質を補完するePRO研究など、一口にePROMといってもその目的は多様であることを報告しました。わが国でもePRO研究は活発に実施されており、将来その成果が期待されます。
当日は多数の方に参加いただきました。ご視聴いただきました方々、講演・進行の労をいただきました方々に感謝申し上げます。
川崎医科大学
平 成人
2021年12月19日 第9回QOL/PRO研究会学術集会報告
去る2021年12月19日(土)、第9回の学術集会が開催された。コロナ禍の影響から、第8回学術集会に引き続きWeb開催となった。79名の方にご参加いただき、オンライン上ではあるが、活発な意見交換がなされた。
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<プログラム>
- 教育講演 「QOL初学者に知っておいてほしいこと」
- 会長講演 「臨床医がPRO、QOLを学習する意味」
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一般演題
1) 高齢者の運転免許返納によるQOLの変化
2) 患者視点からみた甲状腺微小乳頭癌の管理方針別PRO研究:横断研究報告 積極的経過観察と通常手術、内視鏡手術の比較
3) わが街健康プロジェクト参加者のQOLと健康教育に関する横断研究~病院が地域住民の疾患予防と健康維持に果たす役割は?~
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シンポジウム 「ひとりひとりの価値観を中心にした地域医療を考える」
1) 「地域包括ケアの深化に向けた行政の取組」
2) 「自分自身の生活は自分の力で取り戻す!~40代男性の挑戦~」
3) 「データから考える高齢者の医療と介護」
4) 「社会的ケア関連QOLを組織的なケアの質改善にどうつなげるか」
教育講演 「QOL初学者に知っておいてほしいこと」
演者 宮崎貴久子(京都大学)
座長 鈴鴨よしみ(東北大学)
学術集会の開催に先立ち、プレセミナーとして、当研究会の前代表である京都大学宮崎貴久子先生より「QOL初学者に知っておいてほしいこと」と題した教育講演をいただいた。昨年の第8回学術集会で行われた本講演は大変好評であり、再演の希望が多かったことから、アンコールセミナーとして再度のご登壇をお願いし実現したものである。QOL/PRO研究をこれから始める初学者を対象にして、歴史的背景、概念、これだけは知っておいてほしいという測定に際しての基本的事項などで構成されたこの講演は、初学者だけでなく研究を進めてきた者にとっても、評価の土台となる基礎を固める知識を得ることができる貴重な機会であった。改めて再講演くださった宮崎先生に感謝したい。
なお、本講演は、宮崎先生のご許可を得て、会員のための動画学習ツールとしてアーカイブする予定である。
(鈴鴨よしみ 記)
会長講演 臨床医がPRO、QOLを学習する意味
演者 田村暢一朗(倉敷中央病院 救急科)
座長 林田りか(長崎県立大学シーボルト校)
第9回QOL-PRO研究会学術集会の会長講演は、倉敷中央病院の救急科医長である田村暢一朗先生による『臨床医がPRO、QOLを学習する意味』をテーマとしたお話でした。先生が普段、救急医として勤務される中で、「在院日数が短い患者さんは退院後、どのような生活を送られているのか」という疑問を持ち、現在の姿だけでなく、今後の生活を見据えた患者さんのPRO、QOLの測定および向上の必要性を述べていました。専門家との偶然の出会いから得た知識、文献検討にて臨床医がQOLの必要性を感じながらも、実施方法を知らない現実など知り、臨床医への教育が急務であると情熱的に語られていました。先生自身が行った外傷患者さんを対象とした研究結果では、3か月後ではQOLは改善するが、6か月後では改善せず、その理由として患者さん自身が思うような生活を送れない、仕事復帰ができないなど、患者さんと周りのギャップが大きいとの見解を得ていました。解決するには、個々の患者さんおよびそのご家族、地域住民の方々を理解したうえで多職種と連携し、可視化できるPROやQOLを活用して、地域包括支援を行う必要があると締めくくられていました。今後の日本社会で大いに検討すべき内容であり、先生の人柄が盛り込まれた会長講演であったと感じました。患者さんファーストである先生の研究のさらなる発展を期待したいと思います。
(林田りか 記)
一般演題
演者 岸本康希 (新潟医療福祉大学大学院)、數阪広子(日本医科大学)、山下伸治(倉敷中央病院 地域連携室)
座長 木川雄一郎(関西医科大学)
一般演題では3演題が発表され、活発な討議が行われた。
まず、新潟福祉大学の岸本康希先生からは、「高齢者の運転免許返納によるQOLの変化」というタイムリーなトピックの研究をご発表いただいた。65歳以上の高齢者1200人を対象としたWebによる横断調査で、選択バイアスの可能性はあるものの運転停止によるHRQOLの低下が示唆された。免許返納で高齢者ドライバーによる不慮の事故を防ぐことは最重要であることは言うまでもないが、移動手段の制限による高齢者のHRQOL低下についても対策が必要であると認識させられた。
次に、日本医科大学の數阪広子先生より、「患者視点からみた甲状腺微小乳頭癌の管理方針別PRO研究:横断研究報告 積極的経過観察と通常手術、内視鏡手術の比較」についてご発表いただいた。サンプルサイズの偏りと、ベースラインデータの無い横断調査であるため結果の解釈には慎重を要するが、より低侵襲の治療方針がQOLを維持させる可能性が示唆された。今後の前向き研究に期待したい。
最後に、倉敷中央病院地域連携室の山下伸治さまより、「わが街健康プロジェクト参加者のQOLと健康教育に関する横断研究 ~病院が地域住民の疾患予防と健康維持に果たす役割は?~」というテーマで、地域の取り組みについてご発表いただいた。郵送法によるアンケート調査の結果、SF-36による評価では参加者のQOLが比較的高いことが示された。
以上、3演題とも素晴らしい発表であったが、すべて横断調査でありベースラインデータがないということと、対象者に選択バイアスがあることが共通のlimitationであった。いずれも重要なテーマであり、今後の前向き研究に期待したい。
(木川雄一郎 記)
シンポジウム 「ひとりひとりの価値観を中心にした地域医療を考える」
座長 田村暢一朗(倉敷中央病院 救急科)
演者 則安俊昭(岡山県保健福祉部)、内藤さやか(岡山県介護支援専門員協会)、松田晋哉(産業医科大学)、森川美絵(津田塾大学)
「ひとりひとりの価値観を中心にした地域医療を考える」というテーマでシンポジウムが開催された。まず則安俊昭先生より「地域包括ケアの深化に向けた行政の取組」と題して講演いただいた。国が進めている地域包括ケアシステムの歴史、成り立ちから現段階の課題、岡山県が独自で進めている取り組みが紹介された。超高齢化社会を支える医療、介護のアウトカム評価などにも言及いただき、QOLをどうシステムに取り込めるのか?という疑問には、QOLデータ背景も各住民でバラバラであり、そういった個別性を考えるべきというコメントをいただいた。
2題目は内藤さやか先生から「自分自身の生活は自分の力で取り戻す!~40代男性の挑戦~」という演題でご講演いただいた。地域包括ケアシステムの中で脳卒中を発症した男性の具体例を取り上げ、急性期、回復期、在宅期を通じての具体的な患者の思い(PROS)とケアマネの視点をご紹介いただいた。講演中にご紹介いただいた患者の声(PROS)は心に響くものであった。
3題目は松田晋也先生から「データで考える高齢者の医療と介護」という演題でご講演いただいた。松田先生はDPCデータ解析などで日本を代表する公衆衛生学の大家であり、本研究会でお話を聞けたことは非常に幸運であった。現在の地域包括ケアシステムにおいて、急性期医療の要する患者のパラダイムシフトが起きていること、そのために医療、介護連携が必須であることをデータをもとにお示しいただいた。
4題目は森川美絵先生から「社会的ケア関連QOLを組織的なケアの質改善にどうつなげるか」という演題でご講演いただいた。実際のQOLスコアをどう臨床応用するか?という視点で実際に特別養護老人ホーム、老人健康保険施設でASCOTを用いた質評価、改善の試みをお話いただいた。QOLスコアを臨床応用する有効性やその限界についてお話いただいた。
地域包括ケアシステムを地域住民を中心としたものにするには、PROSやQOLにフォーカスを当て、システムに活かすことが必要であるが、その個別性がゆえに限界もあるということが明らかとなった。一言で地域医療といっても様々な患者、住民、医療介護サービスがあり、各環境(在宅or施設)や疾患に分けて考えていくことやQOL以外のアウトカム(要介護度やADL視標)とあわせて検討していくことが必要と思われた。
(田村暢一朗 記)
2021年5月29日 関連セミナー
アプリを利用した治療の現在と未来(宋 龍平 先生)
CSPOR-BC主催のセミナーが、5月29日(土)13:00-14:00に開催され、QOL-PRO研究会会員の皆様にも多数ご参加いただきました。 CSPOR-BCおよび演者の宋先生のご厚意により、講演スライドを当研究会会員にも公開していただけることとなりました。厚く感謝申し上げます。
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
2021年2月6日 第14回QOL/PRO研究会研究セミナー
テーマ:デジタル化時代における医療・健康データとその活用
春の到来を感じさせる暖かな午後、第14回研究セミナーをオンライン開催した。「デジタル化時代における医療・健康データとその活用」をテーマに、異なる分野の研究者3名にご講演いただいた。今回のセミナーは定員を超える方々に応募いただき、参加者は128名であった。
京都大学の福間真悟先生は、豊富な研究実績をもとにIoTデータを活用した臨床疫学研究について幅広くご紹介くださった。早稲田大学の岩井原瑞穂先生は、注目度が高まっている音声や画像、チャットのテキスト等の分析について、方法論を中心に丁寧な解説をいただいた。関西医科大学の木川雄一郎先生には、電子的に患者報告アウトカム情報を収集するePROとそれを用いた国際共同研究について、ご自身の経験をもとにわかりやすくご説明いただいた。
コロナ禍において、社会のデジタル化は加速度を増している。人を対象とした研究も例外ではない。いずれのご講演内容も、今後の展開が大いに期待されるものであった。本研究会として、アップデートされた情報や倫理社会的課題を含めたディスカッションの機会をこれからも提供していきたいと考えている。(文責:内藤)
日時:2021年2月6日(土)13:30~15:30
会場:オンライン開催
プログラム
- IoTデータを活用した臨床疫学研究の拡張
京都大学 福間 真悟
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定]) - ディープランニングによるテキスト分析技術の動向と感情分析への応用
早稲田大学 岩井原 瑞穂
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定]) - EORTCと連携したePRO研究と将来展望
関西医科大学 木川 雄一郎
2020年12月19日 第8回QOL/PRO研究会学術集会
会場:オンライン開催
※プログラム(抄録集)のダウンロードはこちらから
- 教育講演:宮崎貴久子(京都大学)
「QOL初学者に知っておいてほしいこと」
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定]) - 会長講演:齋藤信也(岡山大学)
「QOLに関わる倫理問題」
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定]) - シンポジウム
1)「QOLを測る」平 成人(岡山大学)
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
2)「QOLを価値づける」
能登真一(新潟医療福祉大学)
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
去る2020年12月19日(土)、第8回の学術集会が開催された。コロナ禍の影響から、本学術集会も初めてのWeb開催となった。109名の方にご参加いただき、オンライン上ではあるが、活発な意見交換がなされた。
以下、各セッションの報告を掲載する。
<教育講演>
QOL/PRO研究をこれから始める初学者を対象に、歴史的背景と概念から、これだけは知っておいてほしいというQOL測定に際しての基本的事項について説明した。
1.何を明らかにしたいのか? 何のために測定するのか?
2.その目的に合致した構成の質問項目があるQOL質問票か?そのQOL質問票は、計量心理学的に信頼性と妥当性が検証されているか?
3.QOLは基本的には患者の主観であるので、患者本人による回答(Patient Reported Outcome)か?
これらの基本的事項をふまえたうえで、選択する尺度がプロファイル型の包含的尺度と疾患特異的尺度とに異なってくる。 また主に医療経済で用いられているインデックス(効用値)型尺度のEQ5Dは、患者の状態に対して、一般の人々によって価値づけ作られた効用値(タリフ)によって測られることを、使用の際には留意する必要がある。
講演後、「初学者です」との前置きをいただきながら、多くの質問が寄せられた。すべての質問にお答えできなかったことをここにお詫びする。 仮に、QOL測定に際して代理評価(Proxy)のように前述の基本的事項と異なる場合は、その理由を研究者の観点から研究目的と照らして言語化していただければと考える。講演を終え、QOL/PRO研究会が専門家と初学者がともに歩む研究会であることを再認した。
最後に、初めてのオンラインでの学術集会開催にご尽力いただいた齋藤先生に感謝申し上げます。
(宮崎貴久子 記)
<会長講演>
「生活」の質と訳されることが多いQOLも、「Life」には、生命、生物、人生、一生、人命、生活といった意味があることから、QOLは「生命」の質と訳すことも可能である。 その場合、生命そのものを質の高低で選別するニュアンスが生じ、倫理的に大きな問題をはらんでくる。 それを避けるために、一般的なQOL研究の分野では、Health-related QOL(HRQOL)という用語を使用することも多い。
クーゼは、QOLを鍵概念として、SOL(生命の神聖性)論を論駁し、積極的安楽死も容認する主張をしたが、重い障害を抱える患者やその家族からみれば、QOLという考え方自体が、障害者の命を軽んじることに直結する危険な思想であるということになりかねない。
QOL研究者はそうした重い問題とは一線を画し、健康に関連したQOLに限って扱っているという理解で問題はないが、そのQOLと生命倫理上問題となるQOLはやはり同じものであるという冷静な自覚は必要であると考える。
(齋藤 信也 記)
<一般演題>
今回の研究会では3題の一般演題があった。1演題目は田村からの「短期通所リハビリ利用者におけるリハビリ計画書が長期的QOLに与える影響」の研究計画であった。リハビリは身体面だけでなく精神面、社会面でのゴール設定も重要であり、これらの介入でQOLが改善するか?という内容であった。介入の多様性をどう扱うか?また研究デザインに関して能登先生をはじめ、会場から意見をいただくことができ、より良い研究計画のきっかけを頂くことができた。
2演題目は田中隆史(兵庫医科大学)先生からの「悪性胸膜中皮腫術後患者の運動機能と健康効用値との関係」であった。悪性胸膜中皮腫という稀な疾患群の周術期と1年後のSF6Dの変化を示していただいた。アウトカムとしてなぜインデックス型尺度を用いたのか?という下妻先生からのご質問があり、後のシンポジウムのテーマに直結するものであった。悪性中皮腫という稀な疾患の費用対効果などの検証には非常に有益なデータとなり得るという印象を受けた。
3演題目は宮崎貴久子先生(京都大学)からの「QOL 評価研究の実践を通して生じる課題:質的研究中間報告」であった。QOL研究を進める中で、QOL研究に特異的な課題が存在していることを示していただいた。QOLPRO研究会会員にも今回の研究のような質的研究に興味がある会員は多くおられると思われる。ぜひ今後質的研究の方法論なども会員向けに講演いただければと思う。(田村暢一朗 記)
<シンポジウム>
本研究会は、大まかにいうと計量心理学をベースとしたQOLを『測る(measuring)』ことに興味のある会員と、医療経済学への応用を前提としたQOLを『価値づける(valuing)』ことに関心をもつ会員の両方が含まれているように思われる。前者はプロファイル型尺度派であり、後者はインデックス型尺度派であると言い換えることもできる。
これまでも、本研究会の議論の中で、QALY(質調整生存年)の縦軸にQOL値という言葉を使ってはいけないという厳格な主張がある一方で、EQ-5Dは1分ほどで計れるのでQOL尺度として使用しましたというナイーブな捉え方も見られた。
そこで、今回QOLのmeasuringと valuingの両方に造詣の深い研究者2人により、それぞれの立場から、両者の共通の基盤および混同してはいけない点等を明らかにすることを目的として、本シンポジウムを企画した。
まず、岡山大学の平成人先生から、「QOLを測る」 というテーマで、講演をいただいた。平によると、臨床試験のエンドポイントとしてEQ-5Dのようなインデックス型尺度を用いる例もあるが、疾患特的なプロファイル型尺度に比べて、変化の幅が小さく、本来測りたいものが測れないという欠点がある。またインデックス型尺度のMID(最小重要差)については、そうした研究はある程度存在し、疾患別にMIDが示されている実態が明らかにされた。ただ一方で、果たして、対象者の反応を、一般人の選好で価値づけし、対象者により同定されたMIDで解釈することの複雑さについての疑問が呈された。「いったいだれの評価が反映されているのか?」という平の指摘は重いものと考えられた。
また、「QOLを計る(プロファイル型尺度)とQOLを価値づける(インデックス型尺度)ことをどの程度はっきりと区別すべきか?」という座長からの質問に対しては、「明確に区別すべき」という明確なメッセージをもらった。その理由として、①EQ-5Dの開発目的は、(一部の)健康状態の記述と価値づけであり、対象者のQOLを評価するために開発された尺度ではないこと、②研究対象者の健康状態を、一般人の選好で価値づけする意義は、医療経済評価において、支払者の意思を反映させるためであり、もし、疾病・症状特異尺度があるなら、そちらを上位評価に位置付けるべきであることが挙げられた。
一方で、高額な薬剤などの医療経済評価においては、プロファイル型尺度では代用できない意味があるため、両者の併用が望ましいという示唆もあった。
次に、「QOLを価値づける」 というテーマで新潟医療福祉大学の能登真一先生から、講演していただいた。能登によれば、QOLを価値付ける意味として、①特定の健康状態やその改善に対して,個人あるいは社会から見た重要性や好ましさ,望ましさという観点から数値化すること、②•健康状態の個々のレベルに個人あるいは社会のウェイトを付すこと、③アルゴリズムを使って順序尺度から間隔尺度に変換することが挙げられる。特に③について、間隔尺度化されることで、各種数学的処理が可能になるメリットがある。
また本研究会でも、インデックス型尺度は、医療経済評価に用いる非常に特殊な尺度であるという理解をしている人が多い中で、代表的インデックス型尺度であるHUIのふるさとでのカナダでは、これを、臨床試験のアウトカムの記載や、公衆衛生のモニタリングにも用いることが紹介された。実際カナダでは、HUIで測定したQOLを元にしたHealth-adjusted life expectancy (HALE)というQALYと似た指標を用いて、国民の公衆衛生状態を年次的に公表している。
また、インデックス型尺度のMIDについても、15-DやHUIでは0.03という具体的な数値も示された他、そうした数値が疾患ごとにいろいろ提示されているEQ-5Dも、たとえば5Lであれば、44444から1つだけ動く44443とか、44434をMIDと捉えて良いのではないかというユニークな研究も紹介された。さらには、プロファイル型尺度派には評判の悪い一般国民による価値付けの部分を除いた、健康状態の記述システムの部分の分布を示すパレート分類を活用する研究もあることが分かった。
プロファイル型疾病特異尺度と包括的インデックス型尺度をつなぐものとして、①疾病特異尺度からインデックス型へのマッピングはあくまで次善策であること、②インデックス型疾病特異尺度(例:EORTC QLU C-10)はマッピングよりはましだが,理論的には不十分であるという考えが示された。
まとめとして、QOLを価値づけることは本来,不確実性を前提に人々の健康に対する選好を反映させることであり、それにより、社会の視点を付与し、異なる疾患間の比較が可能となること、及びそれを医療の資源配分を考慮する際にその活用が必然となることが改めて説得力を持って示された。
その後、時間は短かったもののオンライン集会のメリットを生かし、参加者からも活発な質問があった。その中から、シンポジウムのまとめをする上で重要なものを少し取り上げたい。
1つは、EORTC QLQC30のGlobal Healthの項目(29,30問目)に対する考え方である。これはGeneric(包括的な)インデックス型尺度に代わることができるかという疑問に対しては、EQ-VASは近い解釈は可能かも知れないが、EQ-5D本体は、5次元による多元的評価であり、全く異なるものであるとの回答であった。
これと密接に関連するのが、プロファイル型尺度は多元的評価であり、インデックス型は一元的尺度と理解して良いかという質問である。インデックス型尺度も多元的に健康を評価している点で、この解釈は間違っているが、それを最終的に一元的な指標にして、疾患間の比較を可能にしていることを一元化と捉えているなら、その部分は理解できる。この点が明確になったことで、インデックス型尺度は多様な健康状態を測定できていないという誤解を解くことにもつながるものと考えられた。
筆者だけの偏見かも知れないが、これまで、QOLを測ることと価値付けることの間には深くて暗い河があるように思われた。今回のように、両者の共通点と、相違点をきちんと理解することで、私も含め、知識不足による決めつけから脱却できる可能性が示された点で、有意義なシンポジウムであったと考えられる。
これからは、簡単だからEORTCの代わりにEQ-5Dで測定しましたといった単純な誤用が少なくなる一方で、医療経済評価に用いるだけの特殊な尺度と思われてきたインデックス型尺度の、それ以外の分野での活用の可能性が広がるように思える。もちろん、測りたいものを測るのに最も相応しい尺度を用いるというQOL研究の基本は外してはならないが、その中にインデックス型尺度も含まれることが参加者に伝わったとすれば喜びである。
最後にご無理を快く聞いていただき、周到な準備をいただいた平、能登両先生のわかりやすくかつ高度なご講演に感謝するとともに、ディスカッションをリードいただいた共同座長の下妻先生に謝意を表したい。
(齋藤 信也 記)
共同座長であり本会を主宰された岡山大学の齋藤信也先生の問題設定に対して、各演者は数多くのエビデンスに基づいた素晴らしいご講義をいただいた。臨床現場(あるいは患者個人)で一人ひとりの患者に応用する意思決定と、社会における医療資源配分の意思決定における健康アウトカム指標はどれをどう選択することが望ましいか、という、日頃から研究者、医療専門職、HTA関係者が日々悩んでいる課題について、有益な議論と問題提起がなされた。これはQOLやPROの指標に関することにとどまらないが、一人ひとりの人間の健康や命の価値は、金銭のように他の人とは交換できないものであり、個人の意思の集合が必ずしも社会の意思とはならない(しかし現在多くの国で行われているHTAでは個人の意思の集合が社会の意思となることが前提の理論が使われている)ところに問題の難しさがあると改めて感じた。答えはないと思うが、ぜひ、今後も議論を積み重ねていっていただきたい。
(下妻 晃二郎 記)
2020年10月31日 2020年度第2回オンライン特別セミナー
秋晴れの美しい午後、第2回のオンライン特別セミナーを開催した。立命館大学の下妻晃二郎先生をお招きし、「『価値』に基づく医療の時代を迎えて-健康アウトカム評価の役割」というテーマでご講演いただいた。参加者は60名であった。
ご講演を通して、「価値に基づく医療」の実現における「健康アウトカム評価の役割」を考えるための基本知識や最新の情報を提供いただいた。イントロダクションとして、健康度、QOL、PROの概念の違い、QOLやPROの定義や歴史をわかりやすくお話くださった。
近年、とくに治験ではPRO評価への関心が高いが、QOL評価も依然として重要である。医薬品・医療機器等の上市後に現実社会における相対的な価値を明らかにするには、PRO尺度から得られるデータだけでは不十分であり、より幅広い概念であるQOLの評価も重要な意味を持つことも言及された。
価値に基づく医療の2つの視点として、臨床現場では個人の価値観、社会では社会の価値観がある。「価値に基づく医療」、「価値の評価」の話では、「社会的」価値だけが取り上げられがちであるが、臨床現場における「個人的」価値についても、もっと議論を活発にすべきではないかとの指摘がなされた。
医療に対するパラダイムシフト、特に、社会的視点が導入されるに至った背景・理由に触れられた後、日本を含めた各国の医療技術評価(HTA)の状況や評価尺度を概説された。HTAは、医療技術について医学的のみならず、社会的、倫理的、経済的な意義や、開発、供給、使用状況についても考える多角的な政策分析であり、単なる医療技術の評価ではないと強調されたことが印象的であった。
さらに公平性を担保するために考慮すべき倫理的課題一般として、HTAを行っている諸外国で実際に検討されている倫理・社会的要素に関して説明いただいた。先生ご自身が主宰されている立命館大学総合科学技術研究機構医療経済評価・意思決定支援ユニット(厚生労働省委託事業)のご紹介もあった。
個々人の選好や価値観を反映し、さらに社会の持続可能性を考慮した選好や価値観をも視野に入れた医療の実現が強く望まれていることを、まとめのメッセージとされた。健康アウトカム評価研究の研究者は、視野をより広げ、将来を展望しながら、どう研究を進めていけばいいか、今後も皆さんと一緒に考え続けていきたいとの力強い言葉で講演を締めくくられた。この分野のフロントランナーとしての経験に基づいたお話は貴重で、意義深いご講演であった。(文責・内藤)
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2020年9月12日2020年度第1回オンライン特別セミナー
去る2020年9月12日(土)、Zoomを利用したオンライン特別セミナーを開催した。第1回目は講師として京都大学の中山健夫先生をお招きし、「”エビデンス”と”ナラティブ”を考える」というテーマでご講演をいただいた。 冒頭、宮崎代表から、本セミナーの開催に至った経緯、つまり新型コロナウイルスの影響で2月と6月に予定されていたセミナーが相次いで延期になったことを受けて企画されたことが説明された。参加者は60名であった。
講演では、まずEBMが提唱された経緯と本質について概略の説明があり、EBMは患者さんの価値や環境にあわせて思慮深く用いるべきものであることが強調された。また臨床での個別性について、合併症とへ併存症を区別することの重要性にも言及があった。
続けて、中山先生はさまざまなガイドラインの作成に携わっているが、とくに患者向けのガイドラインの作成について、患者団体と内容を協議する中で、医療者側と患者側との意識の違いがあること、さらに患者団体の意見を取り入れて変更された内容について具体例を挙げながら説明された。
次に、narrative-based medicineについての説明に移り、shared decision makingの重要性にも触れた上で、「認定NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」の活動の紹介や文献の紹介を通して、余命告知の際に残る否定的な記憶について説明があった。なお,ディペックス・ジャパンでの患者さんの具体的な語りは以下のHPのURLから聞くことができる。 https://www.dipex-j.org/
最後に、質疑応答の時間があり、4名の視聴者からそれぞれ質問があり、ディスカッションが行われたが、その過程で中山先生が述べられた、「EBMを極めた人がナラティブに至る」という言葉がとても印象的であった。
なお、当日はZoomでの配信が途絶える場面があり,視聴された会員の皆様にはご不便をお掛けしてしまった。次回以降は通信環境等について事前の確認を十分に行った上で開催することとなった。(文責 能登)
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2019年12月14日 第7回QOL/PRO研究会学術集会 開催
会場:聖路加国際大学 日野原ホール
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特別講演:David Feeny(McMaster University)
「QOL/PRO研究とHealth Utilities Indexの開発」
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基調講演・シンポジウム:
「PBM(Preference-Based Measure)活用の可能性」
能登真一(新潟医療福祉大学)
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- 「病院のQI指標として」大出幸子(聖路加国際大学)
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定]) - 「リハビリテーションのアウトカム指標として」
伊澤和大(神戸大学)
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定]) - 「HTAのアウトカム指標として」
村田達教(クレコン・メディカルアセスメント(株))
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QOL/PRO研究会第7回学術集会 報告
※集会報告PDF版はこちらから
去る2019年12月14日(土)、東京、築地の聖路加国際大学・臨床学術センター地下1階にある日野原ホールにて、第7回の学術集会が開催された。 当日は天候にも恵まれ、都内のアクセスの良い場所での開催となったこともあり、96名の参加者を迎えることができた。
今回はカナダのマクマスター大学からQOL/PRO研究の世界的権威であり、Health Utilities Index(HUI)の開発者の1人でもあるDavid Feeny先生をお招きしての特別講演、さらに5つの一般演題と1つのシンポジウムで構成された大会となった。 今年度は折しも、高額薬剤等に対する費用対効果評価が制度化された年に当たり、シンポジウムのテーマもHUIに関連した「PBM(Preference-Based Measure)活用の可能性」としたこともあり、製薬企業から多くの参加者が集まった。 当日のプログラムは以下の通りであるが、一般演題も多種多様で発展的な内容のものばかりであり、QOL/PRO研究のすそ野の広がりや当分野の発展を実感できた。 この視点に立てば、当研究会の役割も徐々に高まり、国内におけるQOL/PRO研究が全体を通して大いに盛り上がってきていることを裏づける学術集会となった。
今回の会場となった日野原ホールはまさに故日野原重明先生の名を冠したホールであり、200席を配した施設内には同時通訳のための専用ブースなどもあり、大変重厚かつ厳かな空間であった。 そして何より、ホールの入り口には肖像画となった日野原先生の姿があり、参加者をにこやかに出迎えてくれていた。 会場の利用に際し、ご協力くださった聖路加国際大学公衆衛生大学院に御礼申し上げたい。(大会長 能登 真一)
以下、各セッションの座長からの報告を掲載する。
<特別講演>
演者 David Feeny (McMaster University)
座長 下妻晃二郎(立命館大学)
ISOQOLの会長を2004-06年に勤められ、代表的な選好に基づく尺度(Preference-based measure: PBM)である Health Utility Index (HUI)の開発者でもある、David Feeny先生による特別講演が、’Quality of Life/Patient-Reported Outcomes Research and the Development of the Health Utility Index’のタイトルで行われた。
HRQOLの定義、HRQOL尺度の分類と用語、特に、PBMの分類と特徴についてまず紹介があり、次に、PBMの間接測定法である多属性効用理論と、一次元の値に集約するにあたっての、加法、乗法、多線形のうち、乗法関数を推奨し、多線形を否定するエビデンスについての説明が行われた。 さらに、小児がん研究を契機としたHUI2の開発と、その後のHUI3の開発経緯、さらに、population-basedの研究やHealth Technology Assessment (HTA)における応用について詳しく説明が行われた。
Feeny先生は元々経済学者でおられるが、臨床現場における個別の疾患や患者の健康状態についての関心が高く、HRQOLを最終的に一つの数値に集約するPBMの開発においても、幅広い臨床情報をいかに網羅するかに永年尽力して来られたかがよくうかがえるご講演であった。
会場や座長からの質問にも丁寧に答えていただいた。 例えば、PBMの間接測定法では、profile-based measure(プロファイル型尺度)と異なり、患者からの測定値を直接用いるのではなく、一般健康人へシナリオを提示してPBMの直接測定法(Standard GambleやTime Trade-Offなど)で測定された値に変換されてから用いるのであるが、その一般健康人の選択方法の妥当性の問題や、PBMで測定された結果の、臨床現場における応用の可能性や注意点、あるいは、近年日本でもHTAなどで使われつつあるEQ-5DとHUIの相違点、などについて丁寧に答えていただいた。
現在、HUIの正式な日本語版とアルゴリズムの開発が、今回の学術集会の当番世話人である能登真一教授(新潟医療福祉大学)らをはじめとした世話人の先生方により精力的に進められており、今回のFeeny先生によるご講演は、研究者間でも日本でまだなじみが少ないPBMの意義や課題、そして複数あるPBMの中でのHUIの特徴について大いに理解を深める機会を与えていただいた。
最後に、今回のFeeny先生の招聘に尽力いただいた能登先生や聖路加国際病院の高橋理先生、大出幸子先生、同時通訳の方々など、関係各位に改めて感謝を申し上げます。 (座長 下妻晃二郎)
<一般演題>
第1席は、国立成育医療センターの彦坂らによる「口唇口蓋裂患者のQOL・患者報告アウトカムを計測する質問紙」の発表であった。 口唇口蓋裂のわかりやすい説明の後に、CLEFT-QというPRO尺度の日本語版開発について、綿密な研究計画が示された。 e-PROを用いた包括的なシステムの構築が予定されており、期待が膨らむ内容であった。
第2席は、倉敷中央病院の田村らによる「Inhospital Quality of Life Program」の報告があった。 QOLを包含する「生活」という概念を病院内に取り込むことで、患者中心の医療を展開できる可能性が示唆された。
第3席は、筑波大学の市村らによる「原発性肺癌手術例におけるEQ-5D を用いた前向き周術期QOL調査」という発表であった。 術前,術後1,3,5,7日目と術後1ヵ月に評価を行っており、短期にEQ-5Dによるインデックス型のQOL尺度を用いて良いのかという問題は、発表者自身も認識していたが、それはさておいても、今まであまり調査されたことのなかった術後1ヶ月以内のEQ-5D VAS値の変動がわかり、興味深いものであった。
第4席は、聖隷クリストファー大学の泉らが、「リハビリテーションのアウトカムとしての健康関連QOL評価は有用であるか?」と題して発表した。 HR-QOLがADLと同様に、リハのアウトカムとして有用かどうかという明確なリサーチクェスチョンを、反応性、MID、一致度を用いて検証した研究であった。 HR-QOLはリハの効果評価において、FIMを用いたADLの評価を補完するような役割が期待されることが明らかとなった。
第5席は、武田薬品の三代らによる「大うつ病性障害患者のQOLと主観的認知機能」の発表であった。 前向き研究のベースラインデータを検討したものであるが、抑うつ症状の評価尺度であるMADRSとEQ-5Dが有意な相関を示していた。 また抑うつが重い群では、認知機能が低いだけでなく、QOLも低いことが明らかとなった。
一般演題のセッションは、ある意味QOL/PRO研究会の基礎体力を表すところだと考えるが、今回はレベルの高い研究が多く、この分野の研究が少しずつ浸透していることがうかがわれた。 また、特別講演をしてくださったDavid Feeny教授が同時通訳のレシーバーに耳を傾けて、このセッションを熱心に聞いて下さっていたのが印象的であった。 研究会後、同教授から日本におけるQOL・PRO研究のアップデートが学べて有意義であったとのお手紙をいただいたところであるが、これを励みに、研究会の皆さまとともにこの分野の研究をすすめて行けたらと願っている。 (座長 齋藤信也)
<基調講演・シンポジウム>
「PBM(Preference-Based Measure)活用の可能性」
まず、講師兼座長の能登から、当シンポジウムを設定したねらいについて説明した。 特別講演でFeeny先生から紹介のあったHUIを含め、EQ-5DやSF-6DといったPBM、つまり選好に基づいた測定尺度に対するニーズが高まっていることと、そのための日本での活用を促進するための日本人の選好に基づいたスコアリングファンクションの開発の必要性についてその開発過程を含めて紹介した。
PBMの活用の可能性については、各シンポジストの先生方から病院のQuality Indicator(QI)指標、リハビリテーションのアウトカム指標、そして今年度に制度化されたHealth Technology Assessment(HTA)における費用対効果評価のアウトカム指標として、それぞれの立場と経験から計画や実際について講義をしていただいた。
まず、聖路加国際大学公衆衛生大学院の大出幸子先生より、「病院のQI指標として」と題して、イギリスNHSでEQ-5Dを用いた医療機関格付けとしてのPBMの活用例と聖路加国際病院を中心とした国内の病院におけるQIとしてのPBMの活用計画についてご説明いただいた。 将来的には全例を対象にEQ-5Dでアウトカムを測定しようとする壮大な計画であるが、このプロジェクトが実現されれば様々な側面から医療の現状をとらえることができるようになると期待される。
つぎに、神戸大学大学院の井澤和大先生から、「リハビリテーションのアウトカム指標として」と題して、リハビリテーションにおけるPBMの活用の実際、とくに心臓リハビリテーションのアウトカム指標としての活用例について、膨大なエビデンスをもとにご紹介いただいた。 一般的にリハビリテーションは機能やADLの改善をアウトカムに用いるが、健康関連QOLでもその効果を十分に表し得ることと、さらにSF-36 からコンバートしたSF-6Dの値を用いても感度良く測定できることをあらためて認識できるお話であった。
さらに、クレコンメディカルアセスメント㈱の村田達教先生から、「HTAのアウトカム指標として」と題して、HTAにおけるPBMの活用例、とくにEQ-5D-5LとHUI3を用いた脊髄損傷者のデータをもとに解説いただいた。 HTAのアウトカムとして用いる場合にはPBMそれぞれの測定特性の違いに留意して用いることが重要であると示唆を受けた内容であった。
最後に、総合討論を行ったが、PBMを含めた健康関連QOL尺度の理解を促進したり、PBM活用のガイドラインを整備したりと、今後も継続して議論していくことの必要性を確認してシンポジウムを閉じた。
P.S. カナダに帰国されたFeeny先生から以下のコメントいただきましたので、ご紹介しておきます。 “I thought that the sessions were excellent, covering a wide variety of topics in patient-reported outcomes research and practice. Clearly PRO Research is alive and well in Japan.” by David,
2017年6月17日 第9回研究セミナー
2017年6月17日(土)、東北大学星陵キャンパス医学部6号館講堂にて、第9回QOL/PRO研究セミナーを開催した。 本セミナーでは、がんの有害事象の患者報告アウトカム指標であるPRO-CTCAE(Patient-Reported Outcome (PRO) Common Terminology Criteria for Adverse Events)をテーマとしてとりあげ、 その日本語版の開発に携わった川口崇先生(東京薬科大学 医療実務薬学教室)のご講演を伺った。 川口先生からは、有害事象と副作用との違いの話など概論的なお話を伺い、さらに、PRO-CTCAEの概念枠組みや測定方法、日本語版作成に関して信頼性や妥当性の検証の話などを伺うことができた。
続いて、岡山大学病院の平 成人先生から「PRO-CTCAE活用への期待」と題して、がんの臨床試験に携わるお立場からの講演があった。患者の立場からの有害事象評価としてPRO視点の重要性が改めて確認され、また、どのような症状を持つ対象者に適用したいかなどが述べられた。 (鈴鴨 記)
プログラム
PRO-CTCAEについて 演者:川口 崇(東京薬科大学)
PRO-CTCAE活用への期待 演者:平 成人(岡山大学)
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
2019年6月29日 第13回研究セミナー
テーマ:QOL/PRO研究を進めるたの正しい計画立案と実際を学ぼう!
日時:2019年6月29日(土)13:30~17:40
場所:長崎県立大学シーボルト校 M104教室
〒851-2195 長崎県西彼杵郡長与町まなび野1-1-1
2019年6月29日(土)、長崎県立大学シーボルト校にて、QOL/PRO研究会第13回セミナーが開催された。 本セミナーのテーマは「QOL/PRO研究を進めるための正しい研究計画の立案と実際を学ぼう!」であり、会員以外の多職種の方々の参加を得て、活発な意見交換が行われた。
<プログラム>
- 開会挨拶(担当世話人 林田りか)
- 講演「QOL評価の基礎:概念から評価まで」
京都大学大学院医学研究科 非常勤講師 宮崎貴久子(資料[会員限定]) - ワークショップ「エビデンスに基づいたQOL/PRO研究を実施するためには?」
京都大学医学部付属病院 助教 錦織達人(資料[会員限定]) - 特別講演「患児家族のためのQOL研究と実践方法」
聖路加国際大学大学院看護学研究科 教授 小林京子(資料[会員限定]) - 閉会挨拶(世話人代表 宮崎貴久子)
今回、初めてQOL/PRO研究会でセミナーを担当させていただいた。 当初は、長崎の地で参加者が確保できるか不安であったが、悪天候にもかかわらず、35名の方々にご参加いただいた。 今回のセミナーは、研究初心者にもQOLやPROを理解していただき、研究を進めるための基礎を築き、さらに今までのセミナーでは実施されなかった、子どもと家族に焦点を当てた具体的なQOL研究の実践を知っていただくという、一連の流れに沿ったプログラムを設定した。 宮崎先生にはQOL評価の歴史やQOL/PROの概念と構成、QOL評価測定の方法などをわかりやすく説明していただき、次に錦織先生にリサーチ・クエスチョンとPICO(PECO)の立て方など事例を交えながら具体的に教えていただいた。 最後に、小林先生には、海外で多く使用されているPedsQLTMの日本語版開発の経緯や子どもへの使用可能性の検証、臨床での実際について、具体的かつ丁寧に教えていただいた。 どの内容も非常にわかりやすく、大変興味深く聞かせていただいた。 参加者にとって、今後の研究の参考にしていただき、QOL/PRO研究の発展に繋がればと思う。 最後に、本セミナーの運営に携わっていただきました講師の方々ならびに会員の皆様、そして熱心にセミナーにご参加いただいた方々に、深く御礼申し上げます。
(担当世話人:林田りか)
2019年2月23日 第12回研究セミナー
テーマ:QOL/PROの正しい評価方法と倫理的意義を学ぼう!
日時:2019年2月23日(土)13:00~17:30
場所:関西電力病院 3階講堂
2019年2月23日(土)、関西電力病院腫瘍内科の勝島詩恵先生(会員)のご協力の元、第12回研究セミナーが開催された。
今回、担当世話人の地元ではない大阪の病院の会場をお借りしてセミナーを開催したのは、勝島先生からの、実地臨床家にQOL/PRO調査研究の基礎を理解してもらう機会がぜひ欲しい、という強い熱意表明がきっかけであった。
確かに、本研究会は、ともすればQOL/PRO研究にある程度精通している会員によるマニアックな発表や議論に最近偏りがちであることは事実である。しかし前回の倉敷中央病院でのセミナーにおける臨床家を中心とした発表と議論がとても好評であったこともあり、今回のプログラム(初心者むけワークショップと、初心者から上級者までを広く対象とした特別講演の二本立て)が日の目を見たわけである。
さて、ワークショップは、目的別の2種類の尺度、すなわち、主観的健康度を素直に(?)測定するための「プロファイル型尺度」と、医療経済評価に寄与する「選好に基づく尺度」、の2種類について行われた。 前者は、東北大学大学院の鈴鴨先生(当研究会世話人かつ事務局)と関電病院の勝島先生のご担当で、鈴鴨先生は測定の基本概念と、全般的尺度として世界的に汎用されているSF-36を題材にした実習が行われた (資料[会員限定])。 一方勝島先生は、がん特異尺度であるEORTC QLQの医療現場での使用経験を通じて、医療現場に役立つ調査計画、解析、解釈についての議論が行われた。
後者は、国立保健医療科学院の白岩健先生により実習が行われた。「選好に基づく尺度」の基本的概念と測定方法、複数の尺度の意義の違い、解釈についての講義とともに、実習とその結果の集計(立命館大学大学院の船越大さんの協力)結果の紹介が行われた。
セミナーの最後に、京都大学大学院文学研究科倫理学専修、准教授の児玉聡先生による、「生命倫理学の視点からのQOL評価の意義と課題」についての特別講演が行われた(資料[会員限定])。
児玉先生は、幅広く生命倫理・医療倫理に精通されている日本では数少ない研究者であり、特に公正な医療資源配分方法の確立に関する研究で担当者は永年ご指導をいただいている関係から今回のご講演を依頼した。
具体的には、「臨床上の決定におけるQOL」、「医療資源配分におけるQOL」、に分けて、それぞれ倫理的側面から、我々のような倫理の素人にも大変わかりやすい整理をしていただいた。担当者の事前の要望に200%以上応えていただく素晴らしいご講演であった。
医療経済評価のみならず、QOL/PRO評価の結果は、臨床現場や政策現場の意思決定に応用される機会が多く、研究者は常にその倫理的影響について考えながら研究を行わなければならない。児玉先生には今後も本研究会にぜひ継続的なご指導をいただきたいと強く思いながら、今回のセミナーを終了した。
本研究会の企画、運営に携わっていただいたすべての会員、熱心な議論を行っていただいたすべての参加者の方々に改めて感謝いたします。
(担当世話人:下妻晃二郎)
2019年2月11日 特別セミナー
テーマ:Methods for Interpreting Meaningful Within-Patient Change for Patient-Reported Outcomes (PROs)
講演者:Kathleen W. Wyrwich PhD.(Eli Lilly) 日時:2019年2月11日(月・祝)14:00~15:30
場所:日本橋ライフサイエンスビル9階913号室
2019年2月11日(月)、MID研究の先駆者のお一人であるKathleen W. Wyrwich先生をお迎えして特別セミナーが開催された。Wyrwich先生の日本でのご講演は、2012年QOL/PRO研究会黎明期に開催された第1回研究集会(会場、サピアタワー)に次いで2回目であった。 今回は、Patient-Centered Outcomes Assessment やFDAのMeaningful Within-Person Change (MW-PC)、MID研究について米国の最新情報をご講演いただいた。
Wyrwich先生の来日スケジュールにあわせて、QOL/PRO研究会でもご講演頂けることになり、急遽開催された特別セミナーであった。 十分な広報期間もないなかで、ご参集くださった方々に感謝申し上げます。
(資料[会員限定])。
2018年6月9日第11回研究セミナー
2018年6月9日(土)、倉敷中央病院大原記念ホールにて、第11回QOL/PRO研究セミナーが、「高齢者医療、地域包括ケアにおけるQOL/PRO(患者報告型アウトカム)」をテーマとして開催された。会員以外の地域医療・ケアを担う多くの方の参加を得て、活発な議論が行われた。
<プログラム>
開会挨拶(倉敷中央病院 救命救急センター長 福岡 敏雄)
「セミナーテーマについて」(倉敷中央病院 救急科 田村 暢一朗)
講演
「医療介護制度改革の目指す方向とQOL研究への期待」
(岡山県 保健福祉部 医療推進課 課長 則安 俊昭)
「実際の臨床現場でQOLスコア評価を行ってみて -QOL研究の有用性と限界-」
1. 地域クリニック利用者を対象として
(あさのクリニック院長 浅野 直)
2. 訪問リハビリ利用者を対象として
(和光園リハビリテーションセンター所長 原 美恵子)
3. 科学的介護とは?
(倉敷中央病院 医療福祉相談室 池上 和美)
「The Adult Social Care Outcomes Toolkit (ASCOT)の紹介」(田村暢一朗)
「新しい分野にQOL/PROを広めていくために必要なこと」(田村 暢一朗)
閉会挨拶(世話人代表 下妻晃二郎)
<担当世話人田村暢一朗からのメッセージ>
この度、倉敷でQOL/PROセミナーを開催させていただきました。まだ世話人になって1年経っていない時期に、セミナーを開催させていただくにあたり、自分にできるのだろうか?という思いが強かったのですが、岡山大学 齋藤信也先生から、「自分の好きなことしたらいいよ。」とアドバイスいただき、日頃自分が臨床で感じている、「高齢患者さんが急性期治療後、地域で健康に生活できているのか?」というクリニカルクエッションから、テーマを「高齢者医療、地域包括ケアにおけるQOL/PRO」とさせていただきました。このテーマにしたときに、この分野で臨床経験はあるけれども、QOLやPROといったことに今まで接したことのない医療者に参加してもらいたい思いが強くありました。実際どれくらいの参加者が来られるのか非常に不安でしたが、各方面のご協力のお陰で、QOL/PRO研究会会員だけでなく、多数の非会員の皆様に参加いただけました。改めて、ご協力いただいた各部署に感謝申し上げます。
セミナー中でもありましたが、今後日本は2040年のピークにむけて、世界でも類をみない超超高齢化社会を迎えます。これに対する福祉や行政システムが今後構築されていくでしょうが、そのシステムの中心に地域で暮らしている高齢者の生活があることを強く希望します。また東南アジアの開発途上国の中でも、一部に医療、福祉レベルが向上し、日本と同じような高齢化社会問題が出始めている国があります。このような国々は、今後日本が構築するシステムを参考にすると思います。そういった意味でも、このような分野に対してQOL/PROが広がることは意味のあることだと考えます。
2018年3月2日 第10回研究セミナー
2018年3月2日(土)、日本橋ライフサイエンスビルディング9階講義室にて、第10回QOL/PRO研究セミナーが開催された。 本セミナーは、科研費研究「患者報告アウトカム・QOLの科学的評価手法の確立-研究と解釈のガイドライン作成」研究班との共催で、研究班の中間報告会として行われた。 この研究班は、患者中心医療の推進に寄与するQOL/PRO研究の、評価・解析の信頼性と解釈可能性の向上を目指して、QOL/PROデータにおけるレスポンスシフトと最小重要差(MID)に関する現状と課題を明らかにし、研究と解釈のためのガイドラインを策定することを目的としている。 現在進行中の5つのプロジェクトについて、担当者から中間結果の報告が行われた。
<プログラム>
(各演題をクリックすると配布資料を閲覧できます[会員限定])
班研究の概要、ISOQOLガイダンス日本語版作成、MIDレビュー(鈴鴨よしみ:東北大学)
レスポンスシフト解析(村田達教:大阪歯科大学、白岩 健:保健医療科学院)
摂食嚥下関連QOL尺度縦断調査(内藤真理子:名古屋大学)
インタビュー調査(宮崎貴久子:京都大学)
WIKI教材作成(平 成人:岡山大学)
また、今回、セミナー開始前(午前)に研究相談会を実施した。3組の相談者に対し、研究会世話人が相談に応じ、活発な討議が行われた。相談会は、次回セミナー以降も継続する予定である。
2017年12月2日 第5回QOL/PRO研究会学術集会 開催
会場:岡山大学病院臨床第2講義室
※プログラム(抄録集)のダウンロードはこちらから
・基礎講座:田村暢一朗(倉敷中央病院)
「国際QOL学会での研究初心者むけワークショップ(日本語版)-QOL研究をはじめてみよう-」
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
・基調講演:平 成人(岡山大学)
「QOL/PRO研究 ことはじめ」
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
・教育講演:木川雄一郎(神戸市立医療センター中央市民病院)
「Computer-based Health Evaluation System (CHES)を用いたePROの導入と今後の展望」
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
・特別講演:樋之津史郎(岡山大学病院)
「QOL/PROデータのマネジメントと解析」
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
QOL/PRO研究会第5回学術集会報告
※集会報告PDF版はこちらから
2017年12月2日土曜日、岡山大学病院臨床第2講義室にて第5回QOL/PRO研究会学術集会2017を開催しました。 地方開催にも関わらず、会員・非会員をあわせ63名もの多くの方々にご参加いただきました。 講師、演者の先生方をはじめご協力いただきました方々に心より感謝申し上げます。
これまでの学術集会等で「QOLやPRO研究を始めたいのだが手法に自信がもてない」、「すでに研究を始めたのだが、これで良いのだろうか?」などの疑問を耳にすることが多く、考えてみればQOLやPRO研究に必要な基礎知識を学ぶ機会は少なく、今回は【さあ、QOL/PRO研究を始めよう!】をテーマにQOLPRO研究の基礎知識を学ぶ機会になればと企画しました。 まず午前に、倉敷中央病院の田村先生より「国際QOL学会での研究初心者むけワークショップ(日本語版)~QOL研究をはじめてみよう~」の基礎講座を担当いただきました。 QOLPRO研究の入り口に立つ方々にとって、エッセンシャルともいえる充実した講義内容だったと思います。 午後の教育講演では、今後のePROの普及を踏まえ、神戸市民病院の木川先生より「Computer-based Health Evaluation System (CHES)を用いたePROの導入と今後の展望」と題し、EORTC QLQ-C30の日本語版ePROの開発と導入までのご経験など、貴重なご講演をいただきました。 特別講演では岡山大学病院の樋之津教授より、「QOL/PROデータのマネジメントと解析」と題し、泌尿器科医でもあるご自身のQOL研究の経験を含め、臨床研究におけるQOL評価の意義と位置づけ、データの解析方法や欠測の扱いについてわかりやすくご講演いただきました。
今回は一般演題として8題のご発表をいただきました。私見にはなりますが、年毎に発表の質は向上しており、ここ数年でのQOLPORO研究の発展を肌で感じることができました。 短い時間で淡々と演題をこなしていくだけの学会発表はよく見かけますが、QOLPRO学術集会の特徴は、一題毎に十分な議論を尽くすところで、今回は一題に20分程度の時間をとりました。 発表とディスカッションから学びの機会を得るという、本来あるべき姿の学術集会でした。 ご参加いただきました皆様に、あらためて御礼申し上げます。(大会長 平 成人)
以下、各セッションの座長からの報告を掲載する。
<基礎講座>
第5回学術集会の基礎講座は、本会世話人でもある倉敷中央病院の田村暢一朗先生による「国際QOL学会での研究初心者むけワークショップ(日本語版)-QOL研究をはじめてみよう-」というお話であった。 これは、国際QOL学会(ISOQOL: International Society for Quality of Life Research)でも実施されている初学者向けワークショップをアレンジしたもので、QOL評価の基本的な内容がわかりやすく、コンパクトにまとめられているものであった。 また、ときおり田村先生ご自身の経験に基づくお話も含まれていたことから、単なる教科書的なものにとどまらず、QOL評価を実施してみたいという方々にとってより実践的な内容であったように思う。 初学者のみならず、QOL研究にある程度の経験を有する研究者が自分の知識を整理する目的にも適していると感じた。
学術集会の午前中のパートであるにもかかわらず参加者も多く、また早朝東京発の方々も多数おられたことから、本内容について関心の高さがうかがわれた。 田村先生のお話が終わった後のディスカッションでは、参加者からの質問に対して、他の本会世話人が熱のこもった話をする場面も散見され、そちらも興味深いところであった。 欧米とは異なり日本の学会ではあまり見られないような、双方向のディスカッションが行えるのは、本会の優れた点のひとつであると感じた。(座長 白岩 健)
<教育講演>
教育講演は、神戸市立医療センター中央市民病院乳腺外科の木川雄一郎先生による「Computer-based Health Evaluation System (CHES)を用いたePROの導入と今後の展望」であった。ご自身が旗振り役となって病院にシステムを導入し、日常臨床にQOL評価を取り入れている。 スリムで物静かな印象の木川先生であるが、ご講演はパワフルでエネルギーに満ちあふれていた。
CHESは、EORTCが開発した電子的に患者データを収集するソフトウェアである。 本講演では、CHESを用いたパイロットスタディと得られた成果を、わかりやすく解説いただいた。 海外の研究者との交流エピソードをはじめ、研究の楽しさが随所に伝わってくる内容であった。
関連の先行研究としてBaschらの報告では、通常ケア群と比較して、電子システムを用いた患者報告型の症状モニタリングを行った群に生存時間の延長が認められている(JAMA. 2017;318:197-8)。 同様に、モニタリングの患者アウトカム向上への寄与について、更なる検討を進めていくとのことであった。 本邦からのエビデンス発信に向けた、ご研究のますますの発展を期待したい。(座長 内藤真理子)
<一般演題1>
一般演題1では、4演題の発表が行われた。 まず関西電力病院の勝島詩恵先生より、「外来待ち時間を利用した多職種介入システムの構築」のご発表をいただいた。がん患者に対して待ち時間を利用したPRO評価を行い、そこから問題点を把握し早期にアプローチを実践しようとするシステムである。PROから多職種連携協働につなげて患者のQOLを向上しようとする試みは今後の医療や福祉には欠かせない視点であり、研究としても興味深く今後の発展が期待される。
2題目の演題は立命館大学の村澤秀樹先生による、「前立腺がん患者のQOL値に関する多施設共同研究」のご発表であった。2病院161例に対し、EQ-5D-5LでQOL値を測定した結果、全体の48%が1(完全に健康な状態)を示した。EQ-5D-5Lの天井効果には年齢と最後の治療からの月数が影響を与えていた。また対象者の重症度の偏りをどのようにクリアするかについても議論された。
3演題目は立命館大学の船越大先生による、「薬剤の償還可否に関する評価基準の調査:一般、医師および薬剤師の選好」のご発表であった。文献調査から命に係わる実感の薬剤の償還可否決定に重要とされる26項目を抽出し、一般、医師、薬剤師に対して、それらの重要度を調査した。症状の改善や費用対効果という基準が上位に位置付けられたのに対し、高齢者や性別という基準に関しては下位に位置付けられるとともに、自己負担額や疾患の余命などの基準に関しては3者間で差を認めた。
4題目は総合せき損センターの津上千愛先生による「外傷性脊髄損傷者におけるEQ-5D-5Lを用いた重症度別QOL値の推移」のご発表をいただいた。190名のせき損患者を対象にFrankel分類で示される重症度によりQOL値を検討した。全体としては、経時的な変化は認められなかったものの、重症度によってはむしろ低下を示すなどし、EQ-5Dの用い方、レスポンスシフトなどの観点から非常に活発な議論が展開された。国内においては、QOL値で示される効用値の集積が待たれており、当施設での意欲的なデータ収集と今後の一層の発展が期待される。(座長 能登真一)
<一般演題2>
一般演題2では、4演題の発表が行われた。
1題目は倉敷中央病院の白方恵先生より、「外傷患者は受傷後から社会復帰にいたるプロセスの中で何を経験し何を考えているのか?」のご発表があった。受傷後、自宅退院した患者2名を対象としたインタビュー調査をM-GTAの手法で分析し、8つのカテゴリーが抽出され、退院後は社会・行政を含めた包括的サポート体制の必要性が示唆された。数ある質的研究方法のなかで2名の対象者からのデータからM-GTA(理論生成を目指すアプローチ)を用いた妥当性について議論された。
2題目は、倉敷中央病院の田村暢一郎先生から「外傷患者の長期的なQOLに影響する因子は何か?」についてご発表があった。外傷患者129人を対象として、退院時、受傷3・6・12ヶ月にSF-36によってQOL評価を実施し、PHとMHへ影響を与える因子を解析した。予測因子は、譫妄が長期的なQOLスコアの、独居がPFの上昇、未婚がMHの上昇に影響していた。欠測値の扱いと、譫妄と年齢や、未婚がMHの上昇に影響している理由などについて、質疑応答があった。
3題目は、大阪歯科大学の村田達教先生による「転移・再発乳癌患者対象のタキサン系薬剤とティーエスワンのランダム化比較試験(SELECT-BC)におけるQOLのレスポンスシフト分析」のご発表があった。SELECT-BC試験においてベースラインと3ヶ月後に測定した、EORTC QLQ-C30によるQOLスコアを対象として、共分散構造分析によるレスポンスシフト(RS)を分析した。RSの「価値の変化」と「内的基準の変化」から「真の治療効果」を明らかにしている。しかし、「価値の変化」と「内的基準の変化」を、等しく加減できるものであるかどうか、また、欠測値の扱いはどう影響しているのかなどについて、さらなる検討が期待される。
4題目は、大阪歯科大学の寺西祐輝先生から「歯の欠損はQOLに影響を与えるか」についてご発表があった。全国のコンピュータを使用し、仮想的な17種類の口腔状態をTime Trade Off (TTO)によって調査して、2193人から得た回答を対象とした。結果の二峰性について、また、TTOはQOLを測定するものではなく、効用値換算表(タリフ)を作成するものであることなどが活発に議論された。(座長 宮崎貴久子)
<特別講演>
研究学術集会の最後に、岡山大学病院、新医療研究開発センターの樋之津史郎教授から、「QOL/PROデータのマネジメントと解析」のタイトルで特別講演をいただいた。
樋之津先生のご活躍は、東大の生物統計学教室在籍中などに、大橋靖雄教授(当時)から個人的にはよくお聞きしていたが、その後赴任された筑波大学の腎泌尿器外科や京都大学の臨床疫学教室におられた頃にやっと臨床試験の会でご一緒させていただく機会を得た。そこで、QOL/PROの定量的評価研究にも大変造詣が深いことがわかり、ぜひ本研究会での講演をお願いしたいと思っていたところである。また、先生の奥様(現、札幌市立大学教授)が、筑波大学在籍中にEORTC QLQの膀胱癌モジュールの日本語版開発をされていたことも紹介され、本研究会とも縁が深いことがわかった。
本講演では、まず、QOL/PROの定量的評価研究に以前から理解が乏しいJCOG(国立がん研究センターの臨床試験グループ)データセンターの一部の方々の批判に囲まれる中で、本分野の研究の重要性をご自身で深く考え、確認された過程についてお話しいただいた。私もJCOGに非常勤で関わっていた2000年頃に同様の経験をしたことがあり、お話には大変共感を覚えた。次に、最近よく使われるようになった「PRO」の概念と、従来から良く使われている「QOL」の概念の相対的な位置づけについて、ともすれば誤解が多いとし、FDAの業界向けのPROガイダンスの記述に基づきわかりやすく解説をされた。
さらに、最近、米国臨床腫瘍学会(ASCO)で話題になったBaschらのe-PROを使ったモニタリングの予後改善効果の論文や、EORTCが開発した電子的患者データ収集ソフト、CHESを応用した現在進行形の研究などを紹介される中で、日本で遅れているe-PRO導入促進の意義についてお話しいただいた。
その他にも、ここで紹介しきれないほど沢山の、貴重なお話を拝聴させていただいた。全会員に替わり、改めてそのご指導に御礼を申し上げるとともに、樋之津先生の今後益々のご健康とご活躍を会員とともに祈念し、特別講演の報告としたい。(座長:下妻晃二郎)
第5回学術集会も、これまでの学術集会と同様に、終始熱い議論が交わされ、充実した会となった。話題を提供してくださった演者の先生方、また、ご参加くださった方々に感謝したい。
2017年6月17日 第9回研究セミナー
2017年6月17日(土)、東北大学星陵キャンパス医学部6号館講堂にて、第9回QOL/PRO研究セミナーを開催した。 本セミナーでは、がんの有害事象の患者報告アウトカム指標であるPRO-CTCAE(Patient-Reported Outcome (PRO) Common Terminology Criteria for Adverse Events)をテーマとしてとりあげ、 その日本語版の開発に携わった川口崇先生(東京薬科大学 医療実務薬学教室)のご講演を伺った。 川口先生からは、有害事象と副作用との違いの話など概論的なお話を伺い、さらに、PRO-CTCAEの概念枠組みや測定方法、日本語版作成に関して信頼性や妥当性の検証の話などを伺うことができた。
続いて、岡山大学病院の平 成人先生から「PRO-CTCAE活用への期待」と題して、がんの臨床試験に携わるお立場からの講演があった。患者の立場からの有害事象評価としてPRO視点の重要性が改めて確認され、また、どのような症状を持つ対象者に適用したいかなどが述べられた。 (鈴鴨 記)
プログラム
PRO-CTCAEについて 演者:川口 崇(東京薬科大学)
PRO-CTCAE活用への期待 演者:平 成人(岡山大学)
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
2017年2月25日 第8回研究セミナー(2016年度第2回勉強会)
2017年2月25日(土)、午後より岡山大学病院にて、第8回となるQOL/PRO研究セミナーを開催しました。本セミナーでは初の試みとして、現在取り組んでいるQOL/PRO研究の実施や解析・解釈での問題や疑問点を募集し、これらを題材にしたグループディスカッションによりQOL/PRO研究への理解を深めよう、という企画を行いました。
事前にテーマを募集したところ、以下のような合計8題の応募をいただきました。応募いただいた方々には、この場をかりて感謝申し上げます。
1.ストマ(人工肛門)患者へのインタビュー調査研究
2.補綴治療における長期的・包括的な口腔関連QOL評価研究
3.ICUに入室する重症患者の長期QOL評価研究
4.消化管癌の栄養学的介入がQOLとADLに与える影響に関する研究
5.重症外傷患者のQOL向上に向けた取り組みに関する研究
6.ePROを用いたpatient monitoringによる診療の質の向上を評価する研究
7.集中治療患者の長期的予後とEQ5d-5lをもちいた費用対効果に関する研究
8.PRO結果の活用と課題
グループディスカッションでは、冒頭に応募者が研究の背景や課題を説明し、ファシリテーターの進行のもとに、フリースタイルで議論を行いました。 各テーマにつき40分の時間をとりましたが、あっというまでした。
今回のフリーディスカッションには、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、アカデミア研究者、企業など実に様々な方々に参加いただきましたので、結果的に多様な視点からの意見が出され、テーマを応募いただいた方々には各々の研究を見直すうえで、大変有益であったのではないかと感じました。
研究の計画段階で、そのコンセプトやデザインを、多分野の方々を交えて議論する機会はほとんどありません。特にQOL/PROに通じた専門家は日本にも少なく、聞きたくても聞けない現状があると思います。研究が走り出してからでは修正できない意見も多くだされたのを垣間見、本企画を今後も継続していきたいと考えました。 このような積み重ねにより、本邦のQOL/PRO研究の発展に寄与できればと思います。 (平 記)
2016年12月17日 第4回QOL/PRO研究会学術集会 開催
会場:名古屋大学鶴舞キャンパス内基礎研究棟1階会議室2
※プログラム(抄録集)のダウンロードはこちらから
・基調講演:内藤真理子(名古屋大学)
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
・特別企画(臨床セミナー):平 成人(岡山大学)
「比較臨床試験におけるQOL/PRO評価:試験デザインと実施 解釈の実際」
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
・教育講演:安藤昌彦(名古屋大学)
「がん臨床試験におけるQOL調査の意義と注意点」
・特別講演:近藤和泉(国立長寿医療研究センター)
「QOL評価に関する考察-評価尺度作成の観点から-」
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
QOL/PRO研究会第4回学術集会報告
※集会報告PDF版はこちらから
以下、各セッションの座長からの報告を掲載する。
<特別企画:臨床セミナー>
岡山大学病院乳腺・内分泌外科の平成人先生より、「比較臨床試験におけるQOL/PRO評価試験デザインと実施・解釈の実際」と題した講演をいただいた。
平先生は臨床医の立場で数多くの臨床試験にかかわっておられ、乳がん領域におけるQOL/PRO研究のフロントランナーのおひとりである。 豊富なご経験を基に、QOL/PRO評価を用いた臨床試験の基本事項について、わかりやすく解説いただいた。 転移乳がんの治療のゴールとして、「生存期間の延長」「症状のコントロール」「QOLの維持改善」が挙げられている(Diseases of the Breast, 4th edition)。 後二者に関して、これらの評価を誰がどのように行うのが妥当であるかという問いに答える形で、これまでの研究報告や臨床試験の概要が紹介された。
長寿に伴って日本人の半数近くががんに罹患する時代となり、治療法の開発・進歩によって治療の選択肢も拡がっている。その一方、予後不良のがんに対する治療の選択は、大きな課題となっている。 医療者と患者のShared decision makingに目が向けられつつある中、その礎となり得るQOL/PRO評価の重要性を再認識させられたご講演内容だった。(内藤:記)
<基調講演>
まず、今回の大会長である名古屋大学の内藤真理子先生が、「QOL/PRO 研究会の歩みと展望」と題して基調講演を行った。 本会設立の経緯から、ISOQOL(国際QOL学会)との関係、および今後の本研究会の方向性について、コンパクトに紹介がなされた。
MID(minimally important difference:臨床的に意味のある最小重要差)とレスポンスシフトという二大テーマについて、わかりやすい解説が行われ、参加者が知識を整理するのに役立つ内容であった。(齋藤:記)
<教育講演>
「がん臨床試験における QOL 調査の意義と注意点」という演題で、名古屋大学医学部付属病院先端医療・臨床研究支援センター 准教授の演者 安藤 昌彦先生から、教育講演を頂戴した。
臨床試験のエンドポイントとしてQOLを用いる場合の注意点について、豊富なご経験に基づくアドバイスをいただいた。 特にQOLの下位尺度や項目ごとに僅かでも有意差を見いだそうとする悪癖は、臨床試験を行う者につきまとうが、その場合当然のことながら多重比較の問題が生じる。 それを回避するために、手順を明確化し、階層を事前に規定するといった配慮の重要性も指摘された。また従来のQOL測定尺度に加えて、QOL期待度を質問紙に加えるというアイデアは注目に値した。
臨床試験におけるエンドポイントとしてのQOLの意義と注意点について、学ぶところの大きなご講演であり、まさに教育講演に相応しい内容であった。(齋藤:記)
<一般演題1>
一般演題1では、4演題の発表が行われた。 1番目の「SLE flare experience from the patient perspective」では、塩沢亜紀先生(Takeda Pharmaceuticals International)より日本でも指定難病となっているSLE(全身性エリテマトーデス)について、患者さん向けの情報交換サイトのデータを用いた質的研究の結果が提示された。フレア(急激な増悪)時のどのような症状について議論がなされているのか等について興味深い結果が得られていた。
2演題目は、青木隆幸先生(東海大学)による「口腔がん患者における周術期のQOL変化について」というご発表であった。口腔がん患者の周術期のQOLについて43名の患者さんのデータを取得した結果から、そのスコアの経時的変化や再建手術の有無等がQOLに与える影響について示唆に富むご提示があった。
次に佐野哲也先生(浜松医科大学)から「乳がん患者の術前後の健康関連QOLに関係する要因の検討-術後1年までの経過を追うにあたって-」と題するご発表があり、ご自身が計画されている臨床研究のデザイン等について、ベースラインの結果を交えながらご説明があった。会場からも臨床的な観点からのアドバイスなど多々あり、活発な意見交換がなされた。
最後は、出田良輔先生(独立行政法人労働者健康安全機構 総合せき損センター)による「外傷性脊髄損傷領域における費用効用分析に関する研究」という演題であった。外傷性脊髄損傷者におけるリハビリの費用対効果を算出したものであり、EQ-5D-5Lを用いてQOL値を評価されていた。
いずれの演題についても会場との活発な議論が行われ、一方通行の発表にとどまらない、大変勉強になるセッションであった。(白岩:記)
<一般演題2>
一般演題2では、3演題の発表が行われた。
まず藤田保健衛生大学の鈴木めぐみ先生より、「QOLIBRI-OS(Quality of Life after Brain Injury-Overall Scale)日本語版の信頼性と妥当性の検証」のご発表をいただいた。頭部外傷患者に対する疾病特異QOL尺度であるQOLIBRIとその短縮版であるQOLIBRI-OSについて、ドイツのデータと比較した研究であった。再テストの信頼性や他の尺度との相関も高く一定の妥当性を得た。QOLIBRI およびQOLIBRI-OSは有用な尺度となり得ることが示され、今後はこれを用いた研究の発展が期待される。
2題目の演題は国立長寿医療研究センターの大島浩子先生による、「フレイルという側面からみた地域包括ケア病棟の意義に関する研究:高齢者の健康関連QOL評価」のご発表であった。地域包括ケア病棟への入院効果にとどまらず、退院後3か月のフォローアップデータを示し、入院期間ではSF-8を用いたQOLの向上を認めるものの、退院後は低下することを示した。要介護状態にある高齢者の継時的なQOL評価研究は少なく、さらにデータを集積し、訪問リハや通所リハの効果などの効果を含めた研究に発展することを期待したい。
3題目は、倉敷中央病院の田村暢一郎先生による、「急性期医療者と「QOL」評価のギャップを埋める~退院後SF-36調査と直接インタビューとの併用の意義~」と題してご発表をいただいた。急性期に携わった患者に対してSF-36を用いてフォローアップし、さらに数値には表れない質的な変化をインタビューによって調査した研究である。その結果、量的な変化だけではとらえきれない患者のQOL変化を理解することに役立ったという。この演題も含めて、いずれの演題についても会場の参加者と間で活発な議論が交わされた。(能登:記)
<特別講演>
今回の学術集会の最後を飾り、国立長寿医療研究センターの近藤和泉先生から、「QOL評価に関する考察-評価尺度作成の観点から-」というテーマで特別講演があった。
最初に、ご自身の小児を対象としたリハビリテーション医の実績から、機能評価尺度の専門家となった背景についての自己紹介があった。その中で、古典的医学モデルにはなかった、「死」と「治癒」の間の「慢性疾患・障害」の部分の重要性に気づかされたことと、それに大きく関連する、WHOのICF(国際生活機能分類)の概念についての詳しい説明があった。
一方、近藤先生は、以前からQOL/PRO評価尺度とその使い方について疑問を感じておられる部分があるというお話しをされた。つまり、「判別的尺度」と「評価的尺度」の使い分けが適切に行われていないことを指摘された。確かに、QOL/PRO評価の世界で、その点についての認識が不足しているがゆえの不適切な評価が少なからずあることについて、改めて考えさせられた。
さらに、小児のリハビリテーション評価へのRashモデルの応用などについて専門的なお話があり、最後に、現在の職場に寄与する認知症高齢者の機能評価の新たな試みについての紹介があった。
近藤先生のご講演は、我々が普段あまり議論をしていない盲点や、目から鱗のお話しを多くいただき、今後のこの分野の研究の適切な発展に欠かせない貴重なお話であった。
ご多忙なところ我々のために貴重な時間を割いていただいた近藤先生と、このような機会を企画してくださった内藤真理子先生に改めて感謝いたします。(下妻:記)
第4回学術集会も、これまでの学術集会と同様に、終始熱い議論が交わされ、充実した会となった。話題を提供してくださった演者の先生方、また、ご参加くださった方々に感謝したい。
2016年7月23日 第7回研究セミナー(2016年度第1回勉強会)
2016年7月23日に2016年度第7回研究セミナーを新潟駅南PLAKA3にて開催した。参加者は14名であった。 今回の研究セミナーでは聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部の泉良太氏から「リハビリテーション分野におけるQOL測定時のレスポンスシフトおよび最小重要差(MID)について」と題した話題提供をいただきながら、QOL/PRO評価におけるレスポンスシフトとMIDに関する議論を深めた。
泉氏からはまず、リハビリテーション領域におけるQOL評価とその意義の位置づけについて紹介があった。そこでは、中医協の資料においても急性期や回復期のリハビリテーションの役割の中に心身機能やADLの改善や向上が掲げられている反面、QOLの向上には言及がなく、この領域におけるQOLに向けた認識の甘さがあらためて確認された。 つぎに、自身の事例紹介を通して、心身機能やADLの改善が必ずしもQOLの向上とは相関しないこと、むしろ、ADLがプラトーになった後でも十分にQOLを向上させうることが確認された。 最後に、自身のこれから実施する予定のリハビリテーション領域、とくに脳卒中患者を対象としたレスポンスシフトとMID研究についての討議を行った。研究デザインに関して、計画では同じ対象者に対して、レスポンスシフトとMIDを同時に測定することとしていたが、それらを同時に行おうとすることには多くの参加者から論理的な矛盾があるとコメントがあった。 またレスポンスシフトについては、Oortアプローチの解釈の仕方を共有し、MIDについてはMCIDとの違いをあらためて確認した。 さらに、議論の過程で、EQ-5D-5LをQOLの評価指標とするかどうかについて、それぞれの立場からの主張が述べられ、国内で汎用されている尺度についても、研究者としての立場が変われば見方も異なるということがあらためて認識された。
以上、第7回研究セミナーで扱ったテーマはレスポンスシフトとMIDというこれまでも十分に議論されてきたものであったが、実証研究として取り上げる際にはまだまだ課題が多く残されていることが再認識できた。 登壇いただいた泉氏ならびに活発なご討議をしてくださったすべての参加者に感謝する。(能登 記)
<プログラム>
テーマ:リハビリテーション分野におけるQOL測定時のレスポンスシフトおよび最小重要差(MID)について(PDF資料[会員限定])
スピーカー:聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部 泉 良太先生
2016年2月20日 第3回QOL/PRO研究会学術集会 開催
会場:東邦英和女学院大学201教室(六本木)
※プログラム(抄録集)のダウンロードはこちらから
・基調講演:大会実行委員長 鈴鴨よしみ(東北大学)
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
・特別講演:池田俊也(国際医療福祉大学)
「「医療技術評価(HTA)におけるQOL評価の意義と課題」」
QOL/PRO研究会第3回学術集会報告
※集会報告PDF版はこちらから
以下、各セッションの座長からの報告を掲載する。
<基調講演>
今回の大会実行委員長である鈴鴨よしみ先生より基調講演をいただいた。
「QOL、何を評価するか」と題したご講演は、3つの柱「QOL/PRO研究会の歩み(国際的な動きの中で)」「QOL、何を測るか」、「本邦におけるQOL/PRO評価課題への挑戦」で構成されていた。
まずQOL/PRO研究会の歩みとして、2011年1月発足から現在に至るまでの5年間の活動について触れられた。本研究会立ち上げのきっかけとなった、国際QOL研究学会(ISOQOL)についても、近年の学会テーマ動向とともに会の概要が紹介された。
続いて、視覚障害に焦点をあてた「QOL、何を測るか」へと話を展開された。視覚障害のQOLは、先生ご自身の長期にわたる研究テーマである(余談であるが、スライドに挿入されていた、視覚障害児にかかわっておられた20代の頃の愛らしいお写真がとても印象的だった)。
視覚障害に関するQOL評価については、視覚の質(QOV)、生活の質、視機能、視覚の障害、視覚による活動など、様々な測定指標が存在する。Sumi Quality of Life Questionnaire、NEI VFQ-25、QOV Questionnaireなど具体的な尺度を示しながら、WHO国際生活機能分類(ICF)と眼の障害のかかわりについて説明がなされた。 視覚障害のQOL/QOVは何を測っているのかという根本的な問いに対して、QOLは主観であることを強調した上で、「視覚によって影響を受ける患者さんのさまざまな段階・様相」という回答を提示された。
最後に、QOL/PRO評価で課題となっているレスポンスシフトおよび最小重要差について、本研究会での取り組みが紹介された。文部科学省科学研究費(基盤研究B:2015年~2019年度:主任研究者 鈴鴨よしみ)の助成を受けて、QOL/PROの科学的評価手法の確立、具体的には研究・解釈のガイドライン作成を目指した調査研究が進行中である。その一環として、ISOQOLで作成されている重要資料の日本語版作成も進められている。 今後のQOL/PRO研究会有志での学術企画についても言及され、QOL/PRO研究の発展に向けた力強いメッセージで講演を締めくくられた。(内藤:記)
<国際QOL研究学会報告>
倉敷中央病院救急科の田村暢一郎先生から、2015年のISOQOL参加報告をいただいた。田村先生は救急医療を専門とする医師で、ご自身がQOLに興味を持ったきっかけからISOQOL初参加の印象まで、ユーモアを交えながら熱く語ってくださった。 2015年度の大会(22th Annual Meeting)は、カナダのバンクーバーで10月21-24日の4日間にわたり開催された。 今回の学会テーマは、”The Matrix: Quality of Life in Social Context”(マトリックス:社会の枠組みの中でのQOL)であった。
学会プログラムの丁寧な紹介に加えて、ご自身の発表 “The quality of life in trauma patients at 6 months after injury: a prospective cohort study” の質疑応答に関するエピソードは、ISOQOLでの発表を検討している臨床家にとりわけ役立つものであった。 Closing Dinnerでの楽しい思い出が写真とともに披露され、会場は大いに盛り上がった。(内藤:記)
<一般演題1>
一般演題1では、3題の発表が行われた。 まず筑波大学附属病院日立社会連携教育センター兼㈱日立製作所日立総合病院呼吸器外科の市村秀夫先生より、「呼吸器外科領域におけるEQ-5D-5Lを用いたQOL前向き調査-研究動機・課題と経過報告-」のご発表をいただいた。肺がんに対する手術アプローチの違いの効果をEQ-5D-5Lを用いて明らかにしようとした研究で、胸腔鏡下手術よりも腋窩小開胸手術を行った方が高い効用値を示していた。周術期におけるEQ-5D-5Lの使用の可能性を示す貴重な研究であり、単施設での研究ではあるが今後のさらなる症例の蓄積が期待される。
2題目の演題は岡山大学の平成人先生による、「高齢乳がん患者を対象とした術後療法に関するランダム化比較試験:試験参加者と辞退者とのHRQoLの比較」のご発表であった。RCT自体は70歳以上のHER2陽性乳癌を対象にしたハーセプチン単独とハーセプチン+化学療法との予後を比較したものであるが、本発表はRCT参加群と参加辞退者(コホート群)の比較であった。アウトカムにはFACT-G、HADS、EQ-5D、PGC Morale Scaleなどが用いられた。PGC Morale Scaleにおいてのみ、RCT参加群で有意に高い結果を示した。RCTへの参加の有無に関するQOL評価研究であり、RCTへの参加自体は患者のQOLを低下させるものではないことが示された。
3題目は、聖心女子大学の柴田玲子先生による、「子どものQOLとその背景要因に関する検討 -KINDLRQOL尺度による日独比較における中間報告-」と題してご発表をいただいた。小学校3・4年生を対象にKid-KINDLRを用いて QOLを調べ、とくに自尊感情の差を日本とドイツの子どもで比較した。日本の子どもにはさらに自己主張尺度および他者配慮尺度によって自尊感情を検討した。民族の価値観の違いと共に、研究のセッティングや環境の違いについて活発な議論が展開された。(能登:記)
<一般演題2>
一般演題2では、2演題の発表が行われた。
岩谷胤生先生(聖マリアンナ医科大学、乳腺・内分泌外科)からは、「乳癌領域における健康関連QOLデータベースの構築」と題した発表があった。乳癌治療の費用対効果分析に必要となる健康関連QOLのデータは国外のものにたよらざるを得ない現状がある。岩谷先生はこれらの打開のため、聖マリアンナ医科大学に通院中の乳がん患者を対象とした大規模横断研究により、様々な状態にある乳がん患者のQOLデータベースの構築を計画しており、膨大な情報のマネージメントが課題であると報告された。
錦織達人先生(京都大学大学院医学研究科消化管外科)からは、「U領域胃癌に対する腹腔鏡下噴門側胃切除が術後体重減少と術後QOLに与える影響」と題した発表があった。錦織先生は、噴門側胃癌に対する噴門側胃切除では、消化液の逆流による術後の食道炎が問題であったが、吻合部に逆流防止機構を設けることにより、これらの症状を軽減し、術後のQOLを改善できているのではないかと考えた。しかし錦織先生は、これまで新しい手術方法の有効性の評価が、必ずしも十分でなかったと認識し、過去の手術例を対象として質問紙票を用いた横断研究を実施した。逆流防止機構を伴う腹腔鏡下噴門側胃切除例は、腹腔鏡下胃全摘施行例と比較して、逆流症状と術後体重減少を抑制し、QOLに優れた術式であることが示された。(平:記)
<特別講演>
医療技術評価(HTA)に関するわが国の第一人者である池田俊也先生から「医療技術評価(HTA)におけるQOL評価の意義と課題」と題して特別講演をいただいた。 HTAの中で特に重要となる費用対効果分析における代表的な指標であるQuality-adjusted Life Year (QALY)の考え方、そこでquality weightとして用いられる効用値の様々な測定法、そして、中でも効用値の間接測定法であるEQ-5Dの、最近開発された改訂版であるEQ-5D-5Lの日本語版のスコアリングアルゴリズムの作成過程について詳しい説明があった。 次に、海外のHTA評価機関、特に英国のNICE、カナダのCADTH、オーストラリアのPBAC、フランスのHAなどの実態について説明があった。 さらに、日本における費用対効果分析を用いた医療政策意志決定の最近の動き(2006年4月より試行的導入)の経緯について紹介があり、その過程で開発されたガイドラインの解説、中でも今回の講演のタイトルに関係が深い話題として、プロファイル型QOL尺度からマッピング法を用いて効用値を算出する様々な試みや課題についての解説をしていただいた。 短時間であったが非常に多岐にわたる、また深い内容の話であり、QOL/PRO研究会の会員の知的興味を大変刺激して下さる内容であった。また、ぜひもう一度機会をもって、さらにじっくりとお話をお伺いしたいものである。(下妻:記)
第3回学術集会は、ご参加くださった方々の熱意に支えられ、演者、聴衆が一体になってQOL/PRO研究の課題を考える、充実した会であった。改めて参加の皆様に感謝する。
2015年12月19日 第6回研究セミナー(2015年度第2回勉強会)
2015年12月19日に2015年度第2回勉強会を東京大学大学院薬学系研究科(総合研究棟2階講堂)にて開催した。参加者72名(世話人・講師除く)であった。 今回の勉強会は2部制で実施し、第1部では「QOL/PRO研究における統計学的諸問題」として、3人の先生方にレクチャーをいただいた。 田中恵理香(バイエル薬品)氏からは「研究におけるデータマネージメント等の課題」として、企業がQOL/PRO研究を実施する際の課題に加え、FDAやEMEAで作成されているQOL/PROのラベリングのためのガイダンスの日本における必要性が議論された。 次いで、土居正明 (東レ)氏からは、「QOL/PRO研究における欠測値の取り扱い」についてご講義いただいた。 欠測メカニズムに関する統計的な議論や種々の統計的手法(selection model, pattern mixture model, MMRM)等のご紹介があり、解析手法を選択する上での”Estimand”の重要性についてもお話しいただいた。 最後にご登壇いただいた柏原 康佑(東京大学大学院 医学系研究科)氏からは、「QOL/PRO研究における因果推論」、特に死亡によってQOLスコアが打ち切られたときにバイアスが生じうること、そのような条件下で平均因果効果を推定するためのSurvivor average causal effect (SACE)の考え方についてご講義いただいた。 いずれのテーマについても会場から熱心な質疑応答がなされ、本分野に関する関心の高さをうかがい知れたように思う。
また、第2部では後藤 励 (京都大学 白眉センター・経済学研究科)氏に「経済学から見たQOL/PRO研究の課題-心理量をどのように測定するか」のテーマでご講演いただいた。心理量を直接測定しようとするQOL/PROと金銭を媒介とする経済学のスタンスの違いや、スコアの個人間比較可能性を前提とするQOL/PRO研究に対し、個人間比較可能性に慎重なありかたについて経済学の歴史をひもときながらわかりやすくご講義いただいた。 QOL/PRO研究と経済学のスタンスの差異のみならず、共通の悩みのようなものも浮かび上がる大変興味深い内容であった。
ご登壇いただいた講師と活発なご議論をいただいた参加者の方々にはこの場を借りてお礼申し上げます。
<プログラム>
第1部 ショートレクチャー: QOL/PRO研究における統計学的諸問題
1.QOL/PRO研究におけるデータマネージメント等の課題(PDF資料[会員限定])
田中恵理香 (バイエル薬品)
2. QOL/PRO研究における欠測値の取り扱い(PDF資料[会員限定])
土居正明 (東レ)
3. QOL/PRO研究における因果推論(PDF資料[会員限定])
柏原 康佑(東京大学大学院 医学系研究科)
第2部 講演
演者:後藤 励 (京都大学 白眉センター・経済学研究科)
経済学から見たQOL/PRO研究の課題-心理量をどのように測定するか(PDF資料[会員限定])
2015年11月28日 第27回日本生命倫理学会年次大会(11/28-29、千葉)
QOL/PRO研究会メンバーが中心となって、シンポジウム「ヘルスケアにおけるQOL測定と生命倫理学的課題」が行われた。
オーガナイザー・座長:齋藤信也(岡山大学)
発表内容:
「ヘルスケアにおけるQOL測定と課題」下妻晃二郎(立命館大学)(齋藤信也代理発表)
「障害を持って生きることはQOLが低いことなのか?-測定と生命倫理学的課題-」鈴鴨よしみ(東北大学)
「緩和ケアにおけるQOL評価研究の生命倫理学的課題への一考察」宮崎貴久子(京都大学)
2015年7月20日 第26回日本在宅医療学会学術集会でのシンポジウム報告
7月20日に東京で開催された第26回日本在宅医療学会学術集会にて、大会長で本研究会会員の吉澤明孝氏(要町病院)と鈴木央氏(鈴木内科医院)のご支援を得て、QOL/PRO研究会後援の「QOL評価研究の進め方:概念、測定、そして実践」の2時間30分のシンポジウムが開催された。 目的は、初めてQOLを測定する医療者にQOLの基本的概念から測定・評価方法と実践例、医療経済の考え方に至るまで、QOL評価研究の進め方についてご紹介をすることであった。
オーガナイザー:吉澤明孝(要町病院)・宮崎貴久子(京都大学)
座長:鈴木 央(鈴木内科医院)
発表内容:
「QOL評価研究の基礎と緩和ケアのQOL研究」宮崎貴久子(京都大学)
「QOL評価研究の進め方:データの解析と解釈」鈴鴨よしみ(東北大学)
「QOL研究の実践例」内藤真理子(名古屋大学)
「医療経済とQOL評価」白岩 健(保健医療科学院)
セッションの終了後も参加者と発表者の意見交換が活発に行われた。 アウトカムの提示が難しいとされる在宅医療関係者のQOL評価研究に向ける期待が感じられた。(宮崎:記)
2015年7月11日 第5回研究セミナー(2015年度第1回勉強会)(会場:立命館大学びわこ・くさつキャンパス)
2015年度第1回勉強会を、7月11日(土)に、立命館大学 びわこ・くさつキャンパスのローム記念館大会議室にて開催した。 猛暑日にもかかわらず多くの研究者が参加され、熱心かつざっくばらんな議論が交わされた。 今回は2つのテーマについて勉強を行った。 第1部のテーマは、「臨床試験においてQOL/PROのMID(minimally important difference)をendpointに用いる場合の課題」であった。 鈴鴨よしみ先生(東北大学大学院)の司会のもと、最初に下妻(立命館大学)から、このテーマを本勉強会で特に選択した背景・理由について簡単な説明があった。 次に、宮崎貴久子先生(京都大学大学院)から、「MIDとは何か?MIDを決定する方法にはどのようなものがあるか?」の基本的な解説があった。 その後、「臨床試験においてMIDをendpointにおいた場合の課題」として、萩原康博さん(東京大学大学院生)と平成人先生(岡山大学病院)から、実例を元に発表が行われた。白岩健先生(保健医療科学院)から上記2つの演題についての特別発言があった後に、フロアを含めた議論が活発に行われた。 将来に繋がる知見が沢山得られた。 次に、第2部では、齋藤信也先生(岡山大学大学院)の司会のもと、能登真一先生(新潟医療福祉大学)からの特別講演をいただいた。 テーマは、「健康効用とQOL-概念の整理と最近の論題」であった。効用を測定する尺度と、価値を測定する尺度の違いや、多属性効用測定尺度とプロファイル型尺度との相違、特に概念や構造の相違について明快に説明が行われたことが印象的であった。 この場をお借りして、演者と参加者の方々、準備に尽力してくれた院生の方々に感謝を申し上げたい。(下妻:記)
- 下妻晃二郎「臨床試験においてQOL/PROのMIDをendpointに用いる場合の課題を 今回のテーマに取り上げた背景」(PDF資料[会員限定])
- 宮崎貴久子「MIDとは何か?MIDを決定する方法にはどのようなものがあるか?」(PDF資料[会員限定])
- 萩原康博「臨床試験においてMIDをendpointにおいた場合の課題:Time to Deterioration解析を中心に」(PDF資料[会員限定])
- 能登真一「健康効用とQOL-概念の整理と最近の論題」(PDF資料[会員限定])
2015年2月28日 第2回QOL/PRO研究会学術集会 開催
集会テーマ:共に語ろう、QOL/PROの今を
会場:京都大学東京オフィス(品川)
※プログラム(抄録集)のダウンロードはこちらから
・基調講演:大会長 宮崎貴久子(京都大学)
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
・特別講演:大橋靖雄(中央大学)
「がん治療でのQOL/PRO評価の実践」
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
QOL/PRO研究会第2回学術集会報告
※集会報告PDF版はこちらから
第2回QOL/PRO研究会学術集会が、2015年2月28日(土)、東京都品川の京都大学東京オフィスにて開催された。以下、各セッションの座長からの報告を掲載する。
<基調講演>
宮崎貴久子先生は、今回の学術集会の大会長であり、基調講演を拝聴した。 まず、QOL/研究会の設立から現在に至る歴史の話であった。本研究会は2011年1月5日に、第一回の世話人会として、今回の学術集会と同じ京都大学東京オフィスで開催することにより始まった話があった。 その後、年に数回の世話人持ち回りの小規模な勉強会と、様々な分野の学会(2012年に緩和医療学会(神戸)、2014年に行動計量学会(仙台)、医療病院管理学会(東京)でセミナーを開催することによる、本研究会およびこの分野の研究の認知度を高める努力、そして、2013年3月にホームページを開設し、ニューズレターや文献紹介などのインターネットを介した情報発信をしてきたことが説明された。 次に、宮崎先生の評価研究との出会いや実際に研究内容についての説明があった。
まずQOLの定義や概念構造が、専門家であっても専門領域(医療、臨床疫学、哲学など)によって様々であることが紹介された。それに基づき、2004年と2010年には、一般人を対象としたQOL認識に関する全国調査を行った。大都市と小都市、QOLという言葉に親しんでいる人とそうでない人、などの関係性について数量化Ⅲ類で4グループに分けられた結果が紹介された。また、2つの調査の間に起こったリーマンショックなどの社会経済的な案件は大きな影響を及ぼしていなかったことも紹介された。このQOLの概念についての第12回国際QOL研究学会(ISOQOL、サンフランシスコ)の発表では、New Investigator’s Awardを受賞された。 2003年からは、緩和ケア患者を対象としてEORTC QLQ-C30による調査を開始し、終末期の経過と機能尺度、症状尺度との結果が示された。さらに、患者家族のQOL調査も行い、患者の死亡1年後よりもやはり患者の存命中の家族のQOLが悪いことを示した。一方、C30は緩和ケア患者には30問と質問数が多く負担が多いことから、すでにEORTCが開発していた緩和ケア患者用の尺度である、CA15(15問)の日本語版を開発し、緩和ケア患者を対象とした調査を行い、Minimally Important Difference (MID)も明らかにした。 さらに、直近の科研基盤(B)では、進行がん患者を対象としたステロイド投与の倦怠感とQOLへの影響を調べる多施設共同ランダム化比較試験を企画され、研究計画や倫理委員会通過のために必要であったことなどが紹介された。 宮崎先生の研究の歴史は、緩和ケア患者のQOLに関するエビデンスを創出する歴史でもあることが強調された。(下妻:記)
<国際QOL研究学会報告>
林田りか先生(長崎県立大学看護学科准教授)は小児のQOL研究を専門とされているが、国際QOL研究学会(ISOQOL)には2000年頃から何度も発表・参加され、ISOQOLについて最も詳しい日本の研究者の一人である。
2014年度はドイツのベルリンで21th Annual Meetingが10月15-18の4日間にわたり開催され、今回はその印象が報告された。今回の学会のスローガンは、’Advancing Measurement Science and Transforming Healthcare’(前進する測定科学と医療の変容)であった。学会スケジュールは、まず初心者向けあるいは中上級者向けのworkshopが複数、1日半ほど行われ、その後に学会本体が始まる構成である。学会本体では口演とポスターの一般演題に加え、複数のplenary sessionが行われる。今回のテーマは、’PROS: Contributing to Better Services & Better Societies’, ‘Cutting Edge Research’, ‘Integrating Patients into PRO Development and Research’, ‘Well-Being and Mental Health Measurement Opportunities’であった。学会が最終盤にさしかかるとClosing dinnerが素敵な場所で開催される。今回は、ベルリンの歴史あるダンスホールで行われた。 学会の忙しい合間に訪れたベルリンの美しい街並みや歴史的な建物などについても紹介された。2015年の22th Annual Meetingはカナダのバンクーバーで10月に開催される予定である。(下妻:記)
<一般演題1>
セッション1では、4演題の発表が行われた。 最初の2題は、バイエル薬品株式会社の田中恵理香先生のご発表であった。1題目は”Review of Caregiver Burden Scales for Patients with Visual Impairment in Japan”で、視力障害者の介護者負担に関する評価尺度について、文献レビュー結果をご報告いただいた。PubMed検索で得られた関連分野の研究報告では、4つの既存尺度が使用されていた。そのうち3つの尺度は日本語版が作成され、妥当性検証も行われていた。その一方で、今回の検索で得られた文献の数は少なく、視力障害者の介護者負担評価を主眼に置いた場合、これらの尺度の有用性も明確ではなかったことから、さらなる研究の蓄積が必要と考えられた。研究の方法論や文献内容の詳細を中心に、熱心な質疑応答が行われた。
続いて、2題目「日本の製薬業界における Patient Reported Outcomes (PROs) の活用:PMDA、FDA、EMAの公的文書の簡易レビューと比較に関する調査」の報告がなされた。 2006年から2009年にPROが医薬品の適応申請に使われ、FDAおよびEMAに承認された14品目を対象とした。そのうち日本で承認された9品目の文書についてレビューを行ったところ、評価エンドポイントとして「症状」「日常生活機能」「健康関連QOL」が使用されていることが確認された。本テーマに関して記述的な分析報告は少なく、2010年以降のPRO活用状況やこれまでの推移について、次の報告が待たれるところである。
3題目は、立教大学の丹野清美先生のご発表であった。「診療プロセスにおける意思決定の納得と満足:日本語版Decision Regret Scaleに関する研究」と題して、海外版尺度の日本語版開発過程をご報告いただいた。患者における診療プロセスでの意思決定に対する診療後の満足度等を評価する尺度であり、今回の検討において日本語版の信頼性や妥当性が示された。尺度内容や構造方程式モデリングのパス解析結果およびその解釈を中心に、活発な質疑が繰り広げられた。
最後の演題は、がん研究会有明病院の本多通孝先生の「胃癌・食道癌の術後症状を評価するための新規尺度『ES4』の開発」であった。術後障害を軽減する目的でさまざまな術式の改良がなされている一方で、介入効果を評価する確立した尺度がないことに着目し、今回の尺度開発が行われた。300名を超える当該患者を対象に計量心理学的検討がなされ、高い妥当性が示された。 臨床現場のリサーチ・クエッションをベースとした一連の研究のひとつとして位置づけられており、今後の展開が期待される興味深い内容であった。(内藤:記)
<一般演題2>
一般演題セッション2では、3演題の発表が行われた。
まず東京大学の佐藤伊織先生から、「複数の評価者(親子)・複数の尺度(年代毎)によるQOLの評価と解析」と題した発表がありました。最近使用頻度が高まっている解析手法である線形混合モデル(マルチレベル分析)を応用し、異なる評価者を一つの変量、異なる尺度も一つの変量として扱ってモデルに投入することによる解析可能性を示した。特に小児のQOL評価においては時期によって異なる指標を用いることやプロキシ(代理人)評価を行うことがやむを得ない状況が少なくないと考えられ、そのような集団でのQOL評価に一石を投じる内容であった。
次に岡山大学病院の雑賀美帆先生から「BREAST-Q日本語版開発」に関する報告がなされた。日本では乳房再建術後のQOL評価尺度がなく、原作者とやり取りをしながら質問項目を紡ぎだしていく作業の様子が紹介された。質疑では、日本語作成において問題になった個所は、もともとオリジナル版が抱えている問題であり、日本語版にだけ修正を加えることの是非についても議論された。
一般演題最後の発表は、国立保健医療科学院の白岩健先生の「EQ-5D-5L日本語版の開発:cTTO法とDCE法の比較」という演題であった。日本においても効用値研究に広く使用されているEQ-5Dであるが、選択肢が3肢から5肢になったことに伴い、新たなタリフ値を求める研究が進められている。 異なる手法を用いると異なるタリフ値が得られることが報告され、この分野の奥深さがわかる内容であった。早ければ来年度には使用可能との報告があり、そのときが待たれる。(鈴鴨:記)
<特別講演>
一般演題に引き続いて特別講演として、大橋靖男先生(中央大学)から、「がん治療でのQOL/PRO評価の実践‐さらにHTAをめざして」というタイトルでご講演いただいた。大橋先生は本邦に生物統計学を築かれた第一人者で、臨床研究者のリーダーでいらっしゃる。ご講演は医療をめぐる現状の深いご造詣から、縦横にQOL/PRO評価研究が取り上げられ、時間が短く感じられた。 COIと医療資源配分やベネフィット(利益)とハーム(不利益)のトピックスから始まり、「糖尿病」研究の実情は、研究者としての姿勢を問われるようであった。本邦のHTA(医療技術評価)の現状から、QOL評価を否定する立場へ向けた具体的で切れ味鋭い論評は圧巻であった。QOL評価が患者さんの意思決定に役立っているというご指摘には、会場全体が頷いていたように思える。QOLが知能と同じような構成概念であると改めて語られ、QOL評価研究の基本の大切さを再認した。 抗がん剤におけるQOL評価では、有害事象の具体例と患者へのフィードバックとしてのMID(最少重要差)について語られた。一方でQOL評価への懸念に対する見解を展開なさりながら、患者さんの観点からの評価が、どのようなstudyで成果をあげているのか、具体的に次々とご紹介頂いた。脱毛(頭髪、まつげや眉毛)や浮腫がいかに患者さんのQOLを下げるのか、治療をする医師にも理解頂けるように、私共も励まなくてはならないと思った。PRO測定の認知やQALYの動向のお話に続いて、最後は今後わが国でも取り組む課題としてePROの必要性が指摘された。
大橋先生の多方面からのQOL/PROのご講演は、参加者それぞれの何かに響き、各人のQOL/PRO研究への元気を頂けたのではないかと思う。改めて、大橋先生にお礼を申し上げたい。(宮崎:記)
第2回学術集会は、ご参加くださった方々の熱意に支えられ、演者、聴衆が一体になってQOL/PROを考える、充実した会であった。改めて参加の皆様に感謝しするとともに、今後もより一層この分野の研究を深めて行くことに会として貢献していきたい。
2014年12月20日 第4回研究セミナー(2014年度第3回勉強会)(会場:岡山大学鹿田キャンパスJunko Fukutake ホール)
<プログラム>
勉強会テーマ:「QOL研究ことはじめ」
- 基調講演:下妻晃二郎(立命館大学)「QOL研究ことはじめ」(PDF資料[会員限定])
- ミニレクチャ―1:鈴鴨よしみ(東北大学)「QOL研究を行う際に気をつけること」(PDF資料[会員限定])
- ミニレクチャ―2:宮崎貴久子(京都大学)「臨床研究および臨床とQOL」(PDF資料[会員限定])
- ミニレクチャ―3:内藤真理子(名古屋大学)「口腔ケアとQOL」(PDF資料[会員限定])
多くの質問が寄せられ、活発な討議が行われました。
2014年9月14日 第52回日本医療・病院管理学会学術総会(9/13-14 東京)
QOL/PRO研究会と学会との共同企画セッション「意思決定にいかすQOL/PRO」を行いました。
オーガナイザ・座長:白岩 健(国立保健医療科学院)
座 長:齋藤 信也(岡山大学)
演 者:下妻晃二郎(立命館大学)、鈴鴨よしみ(東北大学)、能登真一(新潟医療福祉大学)、宮崎貴久子(京都大学)、内藤真理子(名古屋大学)
2014年9月5日 日本行動計量学会第42回大会(9/2-5 仙台)
QOL/PRO研究会メンバーが中心となって、特別セッション「患者中心医療の実現を目指すQOL/PRO研究のアプローチ」を行いました。 QOL/PRO評価のトピックを取り上げ、行動計量・心理計量の専門家たちとの議論が繰り広げられました。
オーガナイザー:宮崎貴久子(京都大学)、内藤真理子(名古屋大学)
発表内容:[QOL/PRO研究の歴史と概観]下妻晃二郎(立命館大学)、「QOL/PROスコアの臨床で意味がある最少重要差」宮崎貴久子(京都大学)、 「QOL/PTO評価におけるレスポンスシフト」鈴鴨よしみ(東北大学)、「研究の実際:航空関連QOL/PROと疫学」内藤真理子(名古屋大学)、 「インデックス型のQOL尺度と医療経済評価について」白岩健(国立保健医療科学院)
2014年6月21日パブリックへルスリサーチセンターヘルスアウトカムリサーチ支援事業(CSP-HOR)「第8回CSP-HOR年会:患者視点の医療技術評価の課題 - QOL/PRO研究の最前線」を後援し、会員が演者として参加しました。
※詳細は、CSP-HORのHPをご覧ください。
2014年6月14日第3回研究セミナー(2014年度第1回勉強会)(会場:名古屋大学)
<プログラム>
勉強会テーマ:「慢性疾患のQOL/PRO研究」
- 内藤真理子(名古屋大学)「イントロダクション:QOL/PRO研究のいろは」
- 小嶋雅代(名古屋市立大学)「関節リウマチ患者のPROとQOL」(PDF資料[会員限定])
- 岡本和士(愛知県立大学)「難病患者のQOL/PRO」(PDF資料[会員限定])
今回の勉強会は慢性疾患のQOL/PRO研究であり、担当世話人所属大学のある名古屋にて活躍する研究者に話題提供いただきました。 慢性疾患領域では、特にQOL/PROは重要なアウトカムであること、また測定の困難さなども取り上げられました。 話題提供くださった先生方に感謝申し上げます。
2014年2月22日第2回研究セミナー(2013年度第3回勉強会)(会場:京都大学)
<プログラム>(ご案内PDF)
- 勉強会第1部 講演会 13:30~15:00
講演:中山健夫(京都大学)「エビデンス、ナラティブ、そしてQOL」(PDF資料[会員限定])
- 第2部 勉強会15:10~16:10
話題提供:宮崎貴久子(京都大学)「QOL評価をプライマリ―エンドポイントにしたRCTの構想発表」(PDF資料[会員限定]) - プレセミナー 12:40~13:10
宮崎貴久子(京都大学):「QOL評価研究はじめの一歩」
今回は、勉強会に先立って、初めてQOL評価研究に携わる方を対象とした入門セミナー「QOL評価研究はじめの1歩」が行われました(講師:宮崎貴久子)。
勉強会には、37名の方にご参加いただきました。中山先生は、医療や臨床研究の国際的な大きな流れをわかりやすくお話し下さり、 その流れの中でのQOLやPROの位置付け・重要性が良く理解でき、見識を深めることができました。 宮崎先生はQOLをプライマリエンドポイントにしたRCT研究が立ち上がるまでの詳細なストーリーをご紹介くださり、 普段なかなか耳にする機会がない研究活動の舞台裏を垣間見ることができました。 最後には参加者がスモールグループで感想を共有して発表し、充実した会となりました。
2013年12月23日第1回QOL/PRO研究会学術集会 開催
会場:京都府立総合社会福祉会館 ハートピア京都
プログラム(抄録集のダウンロードはこちらから)
・基調講演:代表世話人 下妻晃二郎(立命館大学)
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
・特別講演:座長 福原俊一(京都大学)
鈴鴨よしみ(東北大学)「QOL/PRO評価 課題への挑戦」
(資料のダウンロードはこちらから[会員限定])
QOL/PRO研究会第1回学術集会報告
(世話人 齋藤信也[岡山大学])
(プログラム(集会報告PDF版はこちらから)
第1回QOL/PRO研究会学術集会が、2013年12月23日(祝日)、京都市の京都府立総合社会福祉会館で開催されました。
世話人代表である立命館大学教授下妻晃二郎先生から、開会の挨拶ならびに基調講演が行われました。 QOL/PRO研究会の発足から,今回の第1回学術集会開催までの本会の歩みについて紹介があると共に、この分野の国際的な研究の潮流についても解説がありました。またお話の中で、「患者の『主観的な訴え』を適切に評価し、その結果を医療現場や政策に還元していく」ことの必要性を強調されました。
引き続いて行われた一般演題発表では、計6題のご発表があり、フロアとの間で熱心な質疑応答がなされました。 特に今回、質問時間に10分を割いたことから中身の濃いディスカッションが可能となりました。 以下にその内容を簡単に紹介します。
まずは、長崎県立大学の林田りか先生から、「幼児のQOL調査票の開発に関する研究」についての発表がありました。 QOL評価は難しいとされる5歳以下の幼児に対してオリジナルの絵カード方式による評価を行い、5歳以上の子供では、信頼性・妥当性のある調査票であることを明らかにされました。 幼児の発達との関係から月齢も加味した研究の必要性が示唆されましたが、フロアからも小児疾患患者のQOL評価への応用可能性について質問がなされるなど、多くの聴衆の興味を引く内容でありました。
次に、がん研究会有明病院の本多通孝先生から、「Gastrointestinal Symptom Rating Scale(GSRS)は胃癌・食道癌術後のQOLを評価できるか」と題して、 もともとは消化性潰瘍患者のQOL評価票として開発されたGSRSが胃癌・食道癌患者の術後QOL評価にも使えるかどうかを調査した多施設共同研究の結果の一部が報告されました。 結論としてはGSRSは胃癌・食道癌術後患者に対しては計量心理学的妥当性を示すことができず、その利用には注意が必要とのことでありました。 演者からは、今後胃癌・食道癌術後のQOL評価のためには、QOL評価部分と症状評価の部分に分けた評価票が求められるとの示唆がありましたが、 これに対してフロアから現状の包括的なQOL評価票でも、項目1つ1つを症状と捉え、それを症状のPROと考えて、回答分布を重症度として判定する方法も可能であるとのアドバイスがありました。
次に、沖井クリニックの沖井明先生から、「慢性期脳卒中片麻痺患者の痙縮治療を契機に変容する障害体験モデルの研究計画」の発表がありました。 慢性期脳卒中片麻痺患者の初回ボツリヌス治療(神経筋接合部をブロックするボツリヌス毒素による筋麻痺作用を利用)体験をモデル化し、治療前後の活動や参加の変化に関連する要因を探求する研究計画が詳細に報告されました。 特に数少ない症例を詳細に検討する中で、質的研究と量的研究を混合する研究法についての紹介や、質的研究の手法としての「複線経路・等至性モデル(Trajectory Equifinality Model; TEM)」の紹介があり、聴衆に裨益するところが大きな発表でした。
次に、新潟医療福祉大学の泉良太先生から、「項目反応理論を用いた脳卒中患者におけるEQ-5D-3LとEQ-5D-5Lの比較」に関する発表がありました。 効用値(この用語の使用についても議論があるところですが)の間接測定法であるEQ-5D-3LとEQ-5D-5Lの測定特性を、項目反応理論(Item Response Theory; IRT)を用いて検討した報告でありますが、 対象者が526名に上る規模の大きな調査であり、興味深い結果が報告されました。 EQ-5D-5Lの方が、EQ-5D-3Lよりも識別力が高い一方、移動の程度の項目では困難度が異なる偏りを示しましたが、これは文章表現に起因していることが示唆されました。 会場からは、代理回答によることがそうした違いに影響を与えているのではないかと質問がなされるなど、PROデータの取り方(代理(プロキシ)の扱い方)等、この分野の研究の根幹をなすような大切なディスカッションが行われました。
次に、立命館大学・大学院生の中村和裕君から、「乳癌術後患者のQOLにおけるレスポンスシフト(RS)の分析」の報告がありました。 レスポンスシフト(Response Shift; RS)はこの研究会の主要な研究テーマであり、そのRSをOortが提唱した「Structural Equation Modeling:構造方程式モデリング」という方法を用いて解析したことに対して、多くの聴衆から関心が寄せられました。 RSをバイアスとしてのみ扱うのではなく、心理的適応としてポジティブに評価する視点の重要性も指摘されました。
最後に、同じく立命館大学・大学院生の柴原秀俊君から、「ドセタキセル再燃後の去勢抵抗性前立腺癌に対するアビラテロンの費用対効果分析」と称して、医薬品の医療経済評価に関する発表がありました。 それまでの5題と異なり、主目的はモデルを用いた新しい薬の費用効果(効用)分析ですが、効用値(QOL値)の応用と言うことで、興味深い内容でした。 もともとわが国には使用可能な効用値のデータがほとんどなく、そうした場合に質の高い外国人のQOLデータを用いるのか、それとも日本人から得た効用値が望ましいのかに関してホットな議論が展開されました。
一般演題に引き続いて、東北大学の鈴鴨よしみ先生(本会世話人)が、「QOL/PRO評価 課題への挑戦 -2つの視点から比較可能性を考える-」というタイトルで特別講演を行いました。 なおこの特別講演に関しましては、鈴鴨先生の恩師であり、わが国におけるQOL研究のリーダーのお一人である京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻医療疫学分野教授の福原俊一先生が座長の労をお取りくださいました。 福原先生からは、鈴鴨先生の研究者としてのご経歴の紹介に加えて、鈴鴨先生との共同研究の成果のエッセンスを手際よくご紹介くださり、改めてこの分野の研究の魅力を再認識させてくださいました。
鈴鴨先生からは、第1に異なる文化圏でのQOL/PRO評価の比較可能性について、第2にレスポンスシフトに関する比較可能性について、わかりやすいご講演がありました。 前者に関しては、SF-36の概念枠組みが欧米とアジアでは一見異なるように見えたが、従来のtwo componentsモデル(身体的および心理的側面)をthree componentsモデル(前2者に加えて社会的役割的側面)にすると、 そのフレームワークの共通性の方が優位になったとのことでした。 次にレスポンスシフトに関するわかりやすい概説があり、それに引き続いて、それを個々に尋ねる方法としてのthen test、およびデータに尋ねる方法としてのStructural Equation Modeling:構造方程式モデリング(SEM)の紹介がありました。 一般演題第5席の中村君の発表とあわせて、参加者の理解の助けになる内容でした。
鈴鴨先生は福原先生と共にわが国のQOL研究を牽引してこられた方であり、そのご研究の成果の一端に接することができた意義深い特別講演でした。 講演終了後も、多くの聴衆の皆さまが鈴鴨先生のところに集まり、熱心な議論をされていたことが印象的でした。
約3年前に産声を上げたばかりのQOL/PRO研究会が、今回初めての学術集会を開催できたことは感慨深いものがあります。 これもひとえにご参加くださった皆さまの熱意の賜だと存じます。 今後とも本研究会の活動に加わり、支えていただけますことをお願いして、学会報告といたします。
2013年6月29日第1回研究セミナー(2013年度第1回勉強会)(会場:東北大学)
テーマ:PROの継時的評価におけるレスポンスシフトの検出:SEM(Structural Equation Modeling:構造方程式モデリング)によるアプローチ
<話題提供者>
鈴鴨よしみ(東北大学)「Oort Approachによるレスポンスシフトと真の変化の検出」
中村和裕(立命館大学)「レスポンスシフト評価事例:乳癌術後の継時的QOL評価」
17名の参加者にて、SEMによる検出の手法の可能性や限界について活発な質疑が行われました。
※研究会会員の方は当日資料の一部を閲覧可能です。
1. 鈴鴨プレゼン配布資料はこちらから
2. Oortアプローチ資料はこちらから
2013年1月12日2012年度第3回勉強会(会場:名古屋大学)
テーマ:乳癌術後のレスポンスシフト
2012年9月15日2012年度第2回勉強会(会場:大学コンソーシアム京都)2012年6月23日第17 回日本緩和医療学会学術大会にて、モーニングセミナー「緩和医療とQOL/PRO 評価 ―その意義と課題―」を主催
会場:神戸国際展示場
「QOL、PRO とは ―緩和医療での応用―」下妻晃二郎
「緩和医療におけるQOL研究」宮崎貴久子(京都大学)
2012年5月20日2012年度第1回勉強会(会場:岡山)
テーマ:今後の活動計画
2012年2月18日第1回研究集会開催
会場:東京サピアタワー10階 東北大学東京分室
主催:京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野
共催:科研費宮崎班、QOL/PRO 研究会
プログラム
14:30 開会の挨拶 中山健夫(京都大学大学院医学研究科健康情報学)
14:30~16:00 第1 部 Kathleen W. Wyrwich 講演会
16:15~17:45 第2 部 QOL/PRO 研究会
- ISOQOL(国際QOL 研究学会)の動向(内藤真理子)
- PRO とは? FDA ガイダンスより(平 成人)
- QOL/PRO データにおけるMID とは?(宮崎貴久子)
- QOL/PRO データにおけるResponse Shift とは?(鈴鴨よしみ)
- 総合討論
17:45 閉会の挨拶 下妻晃二郎(立命館大学生命科学部)
18:00~20:00 懇親会
2011年12月17日第4回研究会開催(会場:京都大学)
テーマ:レスポンスシフト文献レビューのまとめ
2011年8月23日第3回研究会開催(会場:東北大学)
テーマ:レスポンスシフト文献(7文献)のレビュー
2011年7月23日ISPOR(国際医薬経済・アウトカム研究学会)日本部会第7回学術集会
「QOL/PRO をエンドポイントとした治験・臨床試験の現状と課題」にて、QOL/PRO 研究会メンバーが講演
日時:2011年7月23日(土)9:15-12:30
会場:国際医療福祉大学大学院 東京青山キャンパス5F A 教室
第1 部 FDA が開発した業界向け指針の紹介と国際的な研究動向(9:15~10:45)
司会:立命館大学 生命科学部 下妻 晃二郎
- ISOQOL(国際QOL 研究学会)におけるQOL/PRO の国際的研究動向の紹介 名古屋大学大学院医学系研究科 内藤 真理子
- FDA が開発した「業界向け指針-患者報告アウトカム(PRO)の測定法」の紹介 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 平 成人
- QOL/PRO データにおけるMinimally important difference (MID)とは? 京都大学大学院医学研究科 宮崎 貴久子
- QOL/PRO データにおけるResponse shift とは?
2011年6月24日第2回研究会開催(会場:名古屋大学)
テーマ:レスポンスシフト文献(8文献)のレビュー
2011年2月8日第1回研究会開催(会場:立命館大学)
テーマ:レスポンスシフト文献(4文献)のレビュー