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文献紹介:2024年
<2024年10月 文献紹介>
How does CLEFT-Q change the way we practice? A prospective study integrating patient-reported outcomes
Lauren K Salinero 1, Liana Cheung, Dillan F Villavisanis, Connor S Wagner, Carlos E Barrero. (2024). How does CLEFT-Q change the way we practice? A prospective study integrating patient-reported outcomes. Plast Reconstr Surg, 2023 Sep 1. Online ahead of print. doi: 10.1097/PRS.0000000000011036.
URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37678808/
【背景】:口唇口蓋裂は日本では500人に1人で出生する先天異常である。口唇、口蓋(口の中の天井に相当する部分)、上顎の歯槽骨(はぐき)に裂を認め、整容(みため)、言語、咬合(歯並びやかみ合わせ)、心理社会面など多様な症状を呈する。患者は治療を経て社会参画が可能となるが、多様な症状を抱えながら生活しているのが実情である。
CLEFT-Qは、口唇口蓋裂用の患者報告アウトカム質問紙である。整容、言語、咬合、心理社会について、100点満点で表示される12スケールで表示される。
【目的】:CLEFT-Qを臨床場面に取り入れた際に、①患者ケアがどのように変化するかを検証し、②患者の口頭での訴えとCLEFT-Qの点数に不一致を生じるケースを検証すること。
【方法】:2021年10月~2022年9月の間に、米国フィラデルフィア小児病院の口唇口蓋裂チームの外来を受診した、8歳から19歳の口唇口蓋裂の患者70名を対象とした。患者は受診前にCLEFT-Qを記入した。診療医は、通常の診察で患者の訴えを聴取した後に、暫定的な治療方針を決定した。その後にCLEFT-Qの結果が診療医と家族に共有され、最終的な治療方針が決定された。観察者は、患者が表明した訴えとCLEFT-Qの点数に不一致があるか、またCLEFT-Qの共有により治療方針が変更されたかを記録した。CLEFT-Q点数は、既知の平均点と比較して、一標準偏差分の差異を認めた場合に有意な差と判断された。
【結果】:診察時に患者が口頭で表現した訴えとCLEFT-Qの回答との不一致は、全体の25例(36%)で見られた。CLEFT-Qのデータを取り入れることで、不一致を認めた25例中16例で治療計画が変更された。4例が心理的な介入または手術に、7例が追加治療の協議に、5例がカウンセリング(患者の懸念や期待を確認して共有した)に進んだ。
【考察】:本研究では受診例の1/3で、通常の診察では認めなかった訴えをCLEFT-Qにより拾い上げることができ、そのうち半分以上の例では治療方針の変更が検討された。
コメント
口唇口蓋裂診療では、低年齢の患者は医療提供者に十分に意思を表明することが難しいという課題がある。また治療方針の意思決定者が、治療が出生後早期から成人ころまで継続される中で、保護者から患者に移行するという複雑さがある。そのため、患者の声を拾いあげる患者報告アウトカムが重要である。
多くの患者報告アウトカム質問紙の用途が研究に限定される中で、本研究はCLEFT-Qを診療場面に実装し、その有用性を検証した点が重要である。通常の診察では拾えなかった患者の訴えを明らかにし、治療方針の決定に役立てられることが示された。patient-centered careやshared decision makingの実現を通して、CLEFT-Qがケアの改善に有力なツールであることが示された。
今後、臨床現場に実装するうえでの課題として、computer-adaptive testingなどによる回答負担の軽減や、minimal important differenceの確立などによる点数の解釈の標準化などが必要と考えられた。(MH)
<2024年8月 文献紹介>
Patient-centered outcomes and outcome measurements for people aged 65 years and older—a scoping review
Andersson, Å. G., Dahlkvist, L., & Kurland, L. (2024). Patient-centered outcomes and outcome measurements for people aged 65 years and older—a scoping review. BMC Geriatrics, 24, 528. https://doi.org/10.1186/s12877-024-05134-7
URL:https://bmcgeriatr.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12877-024-05134-7
【はじめに】:高齢化は医療システムの課題であり、高齢者のニーズを満たす戦略を見出さなければならない。患者中心のケアを実践することは、このような患者集団にとって有益であることが示されている。患者中心のケアの効果は、患者中心のアウトカムと呼ばれ、アウトカム測定を用いて評価することができる。
【目的】:高齢者に対する患者中心のアウトカムとそのアウトカム測定に関連する既存の知識をレビューし、マップ化すること、また重要な概念と知識のギャップを特定することを主な目的とした。
【研究課題は以下の通りである】:高齢者の患者中心のアウトカムはどのように測定できるのか、また、どの患者中心のアウトカムが高齢者にとって最も重要なのか。
【研究計画】:スコーピングレビュー
【方法】:2000年から2021年までの電子データベース、灰色文献データベース、ウェブサイトから関連する出版物を検索。2名のレビュアーが独立してタイトルと抄録をスクリーニングし、その後全文レビューとデータ抽出フレームワークを用いたデータ抽出を行った。
【結果】:18件の研究が含まれ、そのうち6件はアウトカムを決定するプロセスに患者や専門家が関与していた。高齢者にとって最も重要なアウトカムは、ケアへのアクセスとケア経験、自律性とコントロール、認知、日常生活、感情的健康、転倒、一般的健康、投薬、全生存、疼痛、意思決定への参加、身体機能、身体的健康、死亡場所、社会的役割機能、症状負担、入院期間と解釈された。最も頻繁に言及/使用されたアウトカム測定ツールは、Adult Social Care Outcomes Toolkit(ASCOT)、EQ-5D、Gait Speed、Katz- ADL index、Patient Health Questionnaire(PHQ9)、SF/RAND-36、4-Item Screening Zarit Burden Interviewであった。
【結論】:高齢者にとって最も重要なことについて、当事者の意見を調査した研究はほとんどなく、この分野における知識のギャップを形成している。今後の研究では、高齢者が自らにとって最も重要だと考えることについて、より明確に意思表明された項目に焦点を当てるべきである。
コメント
この研究は、最近20年ほどで新たに進歩してきたスコーピングレビューの好例である。スコーピングレビューは臨床的・学術的な疑問が、科学的にどこまで明らかになっているかを網羅的な情報収集を通じて明らかにするために実践されるレビューであり、エビデンスギャップを特定し、将来必要な研究を明らかにするために実施される。本研究では高齢者にとって最も重要なケアのアウトカムについて、当事者の意見を調査した研究はほとんどなく、この分野における知識のギャップを明らかにしている。(TI)
<2024年7月 文献紹介>
Eribulin versus S-1 as first or second-line chemotherapy to assess health-related quality of life and overall survival in HER2-negative metastatic breast cancer (RESQ study): a non-inferiority, randomised, controlled, open-label, phase 3 trial
Takahashi, M., Kikawa, Y., Kashiwabara, K., Taira, N., Iwatani, T., Shimozuma, K., Ohtani, S., Yoshinami, T., Watanabe, J., Kashiwaba, M., Watanabe, K., Kitada, M., Sakaguchi, K., Tanabe, Y., Aihara, T., & Mukai, H. (2024). Eribulin versus S-1 as first or second-line chemotherapy to assess health-related quality of life and overall survival in HER2-negative metastatic breast cancer (RESQ study): a non-inferiority, randomised, controlled, open-label, phase 3 trial. EClinicalMedicine, 74, 102715. https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2024.102715
URL:https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(24)00294-3/fulltext
【背景】:エリブリンは、HER2陰性転移性乳癌(MBC)患者の全生存期間(OS)を、特に晩期の化学療法(ChT)において延長する。しかしながら、エリブリン投与患者における一次治療または二次治療(早期投与)のHRQoLおよび有効性は、依然として不明である。エリブリンを一次治療あるいは二次治療に用いることが、OSを維持しつつ、経口5-フルオロウラシル誘導体であるS-1と比較して、HRQoLの非劣性が示されるかどうかを検証した。
【方法】:この非盲検第Ⅲ相ランダム化比較試験は、日本の50の病院で実施された。患者は2016年6月から2019年10月までに登録された。HER2陰性のMBCで一度ChTを受けたことがある、または受けたことがない患者を、エリブリンまたはS-1を投与する群に無作為に1:1に割り付けた。HRQoLは、EORTC QLQ-C30を用いて、24週目までは6週ごとに、それ以降42週目までは9週ごとに評価した。主要評価項目は、QLQ-C30のglobal health status (GHS)が10点以上悪化、または無作為化後1年以内の死亡と定義された。副次評価項目はOSであった。
【結果】:302人の患者が登録され、エリブリン群に152人、S-1群に148人が割り付けられた。質問票の回答コンプライアンス率は85.6%であった。S-1群に対するエリブリン群の1年後までのGHS悪化のリスク差は-0.66%(95%信頼区間:-12.47~11.16、非劣性P = 0.077)であった。GHSの最初の悪化までの期間は、中央値がエリブリン群で5.64ヵ月(95%CI:3.51-8.00)、S-1群で5.28ヵ月(95%CI:3.28-7.80)であった。OS中央値はエリブリン群で34.7ヵ月、S-1群で27.8ヵ月(HR:0.72、95%CI:0.54-0.96、P = 0.026)、無増悪生存期間中央値はエリブリン群で7.57ヵ月、S-1群で6.75ヵ月(HR:0.88、95%CI:0.67-1.16、P = 0.35)であった。新たな有害事象は認められなかった。
【本研究の解釈】:HRQoLに関して、エリブリンがS-1に対して非劣性であることを非劣性マージン10%で結論づけることはできなかったが、エリブリンは早期治療としてQoL悪化までの時間をS-1と比較して短縮させずに、OSを延長する可能性があることを示すことができた。本試験の結果は、HER2陰性転移性乳癌患者の治療選択時の意思決定に活用できる可能性がある。
コメント
本試験の仮説検証方法として、GHSに関してMID = 10と設定し、time-to-event評価とした。仮説は非劣性で、非劣性マージンは10%。ランダム化から1年時点でのGHSの非悪化割合を比較した。打ち切りはinverse probability of censoring weighting (打ち切り確率の逆数を重みとした方法)で考慮した。根治が困難な転移性乳癌における薬物療法の意義はOSの延長とQoLの維持である。一般的にRCTの主要評価項目はPFSやOSといったハードエンドポイントに設定されることが多いが、本試験はHRQoLとしており、非常にチャレンジングであるといえる。(YK)