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文献紹介:2018年
<2018年12月 文献紹介>
患者報告アウトカム尺度に関するシステマティックレビューのためのCOSMIN risk of biasチェックリスト
Mokkink LB, et al. COSMIN Risk of Bias checklist for systematic reviews of Patient-Reported Outcome Measures. Qual Life Res. 2018;27(5):1171-1179.
【目的】最初のCOSMIN(COnsensus-based Standards for the selection of health Measurement INstruments)チェックリストは、PROMs(Patient-Reported Outcome Measures: 患者報告アウトカム尺度)の測定特性に関して、単一研究における研究方法上の質評価を行うために開発された。 本研究における目的は、COSMINチェックリストとその4段階の評価システムをPROMsのシステマティックレビュー用に変更し、測定特性に関する研究のrisk of biasを評価できるようにすることである。
【方法】それぞれの基準(すなわち、デザインの要件あるいはより好ましい統計的手法)について、それが変えられるべきか、あるいはどのように変えられるべきかCOSMIN運営委員会で議論を行った。 変更されたチェックリストは、内容的妥当性を高めるために、変形性関節症におけるPROMsの質に関するシステマティックレビューにおいて、パイロット的に使用された。
【結果】最も大きな変更として、PROMsのシステマティックレビューにおいて評価されるべき測定特性を整理した。 すなわち、報告に関する基準とバイアスの入った結果に関係しない基準を削除した。 また、項目反応理論に関する研究の一般的な要件の基準と個別の測定特性の基準を統合した。 構造妥当性と反応性に関する仮説を前もって明確化することをレビューチームに対して推奨し、仮説生成に関する基準を削除した。 4段階評価システムのラベルも変更した。
【結論】COSMINのrisk of biasチェックリストはPROMsのシステマティックレビュー用に開発された。 これは、システマティックレビューにおける使用と、測定特性の研究における研究手法上の質を評価する目的、例えば測定特性に関する研究デザインや報告に関するガイドラインなど、と区別するためである。
コメント
COSMIN(COnsensus-based Standards for the selection of health Measurement INstruments)は健康アウトカム測定尺度の開発や評価を行っている多分野の専門家のからなる研究グループである(https://www.cosmin.nl/)。 抄録中でも触れられているCOSMINの作成した研究の質評価のためのチェックリスト(Qual Life Res. 2010;19(4):539-49)は健康関連QOLの分野でも影響力を持っており、QOL尺度の開発や計量心理学的特性を検討した論文では、引用等がなくてもCOSMINのtaxonomyやチェックリストを意識した報告が多くなっているような印象を受ける。 しかし、2019年1月現在COSMINのWEBサイト上では” We do not recommend to use the original version of the COSMIN checklist (Mokkink, et. al. 2010) in your ongoing studies anymore”とされており、質評価にオリジナルのチェックリストを用いることは推奨していないことに注意が必要である。 今回紹介したチェックリストは、抄録中にもあるようにシステマティックレビューにおけるrisk of biasの評価用に開発されたものであり、個別研究の質評価のためのものではない。一方で、COSMINのwebページ上では先ほど引用した分の続きとして” but instead, use the new COSMIN Risk of Bias checklist, or the Study Design checklist”あるいは別のところには”The COSMIN Risk of Bias checklist (Mokkink, et al. 2018) substitutes the original COSMIN checklist (Mokkink, et al. 2010).”との記載があり、個別研究の質評価の目的で本リストを用いることも(暫定的には?)必ずしも否定されていないのかもしれない。 いずれにしても本チェックリスト(やWEB上にあるuser manual)はQOL尺度開発における教科書的な文献としても読むことができ、尺度開発に関心のある向きには一読の価値があると思われる。 ただし、COSMINで用いられている用語は旧来の教科書などと若干異なる部分もあるため、そのあたりはCOSMINのWEBページ上にあるtaxonomyの定義などを参照しながら検討するとよいのだろう。(ST)
<2018年11月 文献紹介>
QLU-C10D: EORTC QLQ-C30に基づく多属性効用値測定尺度のための健康状態分類システム
King MT, et al. QLU-C10D: a health state classification system for a multi-attribute utility measure based on the EORTC QLQ-C30. Qual Life Res, 25(3) 625-36, 2016.
【目的】がん特異的QOL質問票であるEORTC QLQ-C30から、多属性効用値測定の基礎となる健康状態分類システムhealth state classification system (HSCS)を導くこと
【方法】QLQ-C30で確立されたドメイン構造に基づきHSCS用の概念モデルを作成した。 HSCS用の次元と項目のサブセットを選択するにあたり、複数の基準が考慮された。 鍵となる次元をアプリオリに選択するにあたり、専門家の意見と患者からの情報提供を受けた。 HRQOLからなるプール化されたデータセットの二次解析および、8カ国の2616人の患者からの臨床データ、がんの初発部位の範囲、病期、および治療法データをもとに、計量心理学的クライテリアが評価された。 概念モデルの頑健性と一般化可能性については、 確証的因子分析(confirmatory factor analysis ;CFA)を使用して解析した。 またRasch解析を用いて、項目の床効果(最低値が75%より多く観察される)、項目反応非順序閾値、潜在変数のカバー、および差分項目関数を分析した。 さらに、病期と変化反応量に基づいた既知グループとの比較のための効果量(エフェクトサイズ)を計算した。 また79人のがん患者を使って、同じ次元内の項目の相対的重要性も検討した。
【結果】CFAにより、がんの初発部位がどこであっても、概念モデルおよびその一般化性が支持された。 すべてのクライテリアを考慮した後に、12項目が10次元(身体活動(移動性)、役割機能、社会的機能、情動機能、疼痛、疲労、睡眠、食欲、嘔気、胃腸症状)を表すために選択された。
【結論】QLQ-C30項目から作成されたHSCSはEORTC Quality of Life Utility Measure-Core 10 dimensions (QLU-C10D)として知られるようになった。 QLU-C10D開発の次の段階には、妥当性の検証が含まれているが、現在世界的にそれが計画され、開始されている。
コメント
本欄の2018年2月の文献紹介で紹介された「EORTC QLU-C10D(がん特異的QOL尺度QLQ-C30由来の多属性効用値測定尺度)のオーストラリアの効用値ウェイト」(King MT et al: Australian Utility Weights for the EORTC QLU-C10D, a Multi-Attribute Utility Instrument Derived from the Cancer-Specific Quality of Life Questionnaire, EORTC QLQ-C30. Pharmacoeconomics. 2018; 36: 225-238.)の元になったEORTC QLU-C10Dの開発に関する論文である。 論文紹介としては、いささかタイムリーさには欠けるものの、同欄でNS氏が「本研究はそのUtilityを測定できる強力なツールがまさに実用的になったという点で意義深い。日本独自のスコアリングアルゴリズムが開発されれば、がん患者のQOLをEQ-5Dなどよりもより感度良く示すことができようになるのかもしれない。」と強調しているように、がん患者の効用値を測定する上での魅力的なツールの開発オリジナル論文と言うことで敢えて取り上げた。
プロファイル型尺度から選好に基づく尺度を導出するには、通常2段階が必要である。 第一段階は健康状態分類システム(HSCS)を作ることである。 これによって、項目を減らすことで、第二段階ですべての健康状態の効用値を評価できるようになる。 この論文はその第一段階のものであり、第二段階については別論文(Norman R et al, Using a discrete choice experiment to value the QLU-C10D: Feasibility and sensitivity to presentation format. Quality of Life Research, 2016 , 25(3):637-49)として公表されている。 本文中にある本モデルの適合度はp<0.001CFI=0.98, TLI=0.98, RMSEA=0.071となっている。
本研究会でも、こうした選好に基づく測定尺度をプロファイル型尺度の簡便版のように使用することの是非が論じられているが、本論文では明確に「QLU-C10Dはプロファイル方尺度の簡略版でもなければ、単独(stand-alone)尺度でもない。QLU-C10DはQLQ-C30を使用した臨床研究用の効用値を導き出すスコアリングアルゴリズムである。」 と記されている。
また、QLUのユニークな点として、患者の意見を取り入れたことを挙げている。 これは統計学的には差がつかない項目候補をどう扱うかという際に役だったとのことである。 ただ一方で、研究の限界のところに、その患者とはオーストラリアのごく少数の患者にしか聞いていないとも書いてある点には気を付けたい。
最も重要な論点は、すでにQLQ-C30をEQ-5Dにマッピング(統計学的手法を用いて変換すること)が数多くなされている中で、QLQ-C30から、MAU(多属性効用値)を直接求めることに意義があるのかという点である。 直接的な社会的価値セットを求める(QLUのやり方)を推す論拠としては、①マッピングで得られるような一般的な効用値では、がん患者の変化が見過ごされ、効用値に反映しない可能性があること、②マッピングの方法に定番はなく、現在まで提唱されているマッピングモデルの適合度もそれほど高くないこと、③マッピングは回帰モデルを用いるが、それは使用するデータセットへの依存度が高く、疾患の網羅性に乏しいこと、④マッピングの結果得られた効用値は非現実的なことが多く、それを用いたQALYを利用して医療資源配分をするには不十分なものであること、⑤回帰モデルによるマッピングはバイアスが避けがたく、最高値は過小評価に、最低値は過大評価になりがちであること、が挙げられている。 特に5点目は30のマッピングと直接測定の効用値を比較した研究で前者の分散が後者よりも例外なく小さかったことを補強材料としている。
もう一つ重要な点は、このHSCSからcognitive function(認知機能)が外れたことである。 今回のデータセットには脳腫瘍が入っておらず、このHSCSで直接中枢神経に影響を及ぼすがんの評価ができるかという問題と、乳がんの化学療法で最近注目されている“chemo brain”(化学療法の副作用による認知機能の低下)のような重要なものが評価できなくなる懸念がある。
そのほかにも研究の限界は列挙されているが、そうした限界があることを留保しても、こうした方法での効用値測定は今後益々重要になってくるものと予測される。 我が国でもQLU-C10Dの日本版スコアリングアルゴリズムが早急に開発されることで、がん患者の効用値がより正確に反映され、ひいてはそれに基づいた医療資源配分がなされることが期待される。(SS)
<2018年10月 文献紹介>
一つのサイズで適合するか? QOLの特性にむけた高齢者と非高齢者の選好評価
Ratcliffe1 J, et al. Does one size fit all? Assessing the preferences of older and younger people for attributes of quality of life. Quality of Life Research. 2017; 26: 299-309.
【目的】18歳から64歳の非高齢者と65歳以上の高齢者を対象に、順位付けおよびbest-worstスケール (BWS)法を用いて、QOL項目の相対的な重要性を系統的に比較する。
【方法】ウェブベースの調査を開発し、オーストラリア全土において地域ベースで、18歳から64歳の非高齢者群と65歳以上の高齢者群を対象とした調査を実施した。 回答者に対し、12のQOL項目を順位付けするよう求めた。 また、回答者には、同じ12のQOL項目を用いた連続的なbest worstスケールにも回答してもらった。
【結果】QOL項目の相対的な重要性は、非高齢者群と高齢者群で異なっていた。 65歳以上の高齢者にとっては、自立および自身の日常生活のコントロールができることが、全体的QOLに特に重要であった。 一方、64歳以下の非高齢者にとっては、精神的健康が最も重要だと考えられていた。
【結論】高齢者医療および高齢者介護の分野で高齢者が利用する多くの介入は、身体的な健康状態より広い範囲のQOLにインパクトを与える。 本研究の結果から、より広い範囲のQOLに焦点を当てることは、高齢者がQOLを構成すると考える要素についての高齢者自身の選好とも一致する可能性が示された。
コメント
本研究は、2018年10月にDublinで開催されたISOQOL 25th Annual Conferenceで発表された、Quality of Life Research誌のOutstanding Articles of the Yearである。 世界的に広く用いられているEQ-5Dの効用値は、非高齢者の選好を取り入れる傾向がある。 本研究ではEQ-ED, AQol, ASCOTから抽出された12のQOL項目で調査された。 高齢者と非高齢者ではbest worstスケールで選択された項目が異なっていた。この結果は、パイロットとして実施された混合法による結果とも一致していたという。 65歳以上の高齢者の選好が64歳以下の非高齢者と異なっているのであれば、QUAY算出は高齢者には適合しないことになる。 一方で、高齢者も対象とした本研究がWEB調査であることの限界は考慮すべきでる。 しかし、高齢者と非高齢者の選好の比較に焦点を当てた” Does one size fit all?” とのシンプルな問いかけは、高齢者のケアのあり方、医療資源配分などにも新たな観点を与えることになるだけでなく、「QOLとは何か?」という基本的な問いかけをも投げかけているように考える。(MK)
<2018年8月 文献紹介>
脊髄損傷患者の生活の質と適応:傷害後1-5年のレスポンスシフト効果
Schwartz CE, et al. Quality of life and adaptation in people with spinal cord injury: response shift effects from 1 to 5 years postinjury. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 2018;99:1599-608.
【目的】脊髄損傷後5年間のレスポンスシフト効果を調べること。
【方法】脊髄損傷専門センターにて、損傷から1年後(1125人)、2年度(760人)、5年後(219人)に観察する前向きコホート研究。 研究対象の79%は男性、39%は運動/感覚完全麻痺であった(平均年齢、44.6±18.3歳)。 患者報告アウトカムは、SF-36v2と生活満足度尺度11を用いた。参加者の潜在変数スコアは、(1)潜在的脱落バイアスと(2)悪化アウトカムリスクを反映する傾向スコア、で調整された。 レスポンスシフト効果を検出し説明するためにOort構造方程式モデリングアプローチを使用し、患者がフォローアップ時にレスポンスシフトを経験するであろうという仮説を検証した。
【結果】研究データが収集された時期は、FIMスコア(運動や認知機能の客観的尺度)が改善し安定した後の期間であった。 3つの潜在変数(身体、精神、症状)が時間の経過を伴ってモデル化された。 レスポンスシフトモデルは、内的基準変化と概念再構築のレスポンスシフト効果を示した。 これらのレスポンスシフト効果を調整した後、FIMが安定しているにもかかわらず、身体的健康の潜在変数は2年後と5年後のフォローアップ時に小さな真の改善を示した。
【結論】脊髄損傷患者の損傷後1-5年の期間に、内的基準変化と概念再構築を表すレスポンスシフトが検出された。 運動機能や認知機能が安定しているにもかかわらず、脊髄損傷患者は自分の状態への適応を続けている。 この適応は、症状と身体的・精神的健康との間の分離、そして身体的潜在変数の実質的改善を反映している。
コメント
昨年のQOL/PRO研究会学術集会において、脊損患者のQOLの継時的変化に関する一般演題発表があり、重症度によってその経過は異なることから、レスポンスシフトが推測されることが議論された。 本論文は、その議論の回答の一つになる。本研究の結果、脊髄損傷患者では内的基準の変化と概念の再構築が起きていることが示され、身体的状況と主観的QOLとは独立して推移することが明らかになった。 さらに、損傷後1年以内の急性期の変化についての解明が待たれる。(SY)
<2018年7月 文献紹介>
新たにがんの診断を受けた患者を対象としたインターネットによるストレスマネージメント:待機リスト患者を対照としたランダム化比較試験
Corinne U, et al. Web-Based Stress Management for Newly Diagnosed Patients With Cancer (STREAM): A Randomized, Wait-List Controlled Intervention Study. J Clin Oncol. 2018; 36(8):780-8.
【目的】がんの診断を受けることは大きな精神的苦痛の原因となる。しかしこの重要な時期に、多くの患者は心理的サポートを受けていない。 インターネット介入は、顔を合わせてサポートを受けるという壁がない。 我々は、新たにがんと診断された患者を対象に、インターネットによるストレスマネージメント(STREAM[Stress-Activ-Mindern])介入の実施可能性と効果を評価した。
【患者と方法】過去12週以内に一次治療を開始したがん患者を、苦痛レベル(0~10の尺度で5以上対5未満)で層別化し、セラピスト指導のインターネット介入群、あるいは待期者リスト(対照)群にランダムに割り付けて比較試験を行った。 効能に関する主要エンドポイントは、介入後のQOL(FACIT-Fatigue)であり、副次エンドポイントは、苦痛(苦痛温度計)と不安/抑うつ(HADS)であった。 治療効果の有無はベースラインの苦痛で調整したANCOVAで評価した。
【結果】229人中、スクリーニング後の222人が研究に参加した。 2014年9月-2016年11月に、乳癌治療中の92人を含む129人の新たに診断を受けて患者を、介入群(65人)あるいは対照群(64人)にランダムに割り付けた。 8つ中6つ以上のモジュールに回答した患者は80%と、回答率は良好であった。 オンラインで心理学者は患者一人当たり週に13.3分(四分位間の範囲、9.5-17.9分/週)関わった。 介入群では対照群と比べて介入後のQOLは有意に高く(FACIT-Fatigue: 中央値, 8.59; 95% CI, 2.45-14.73; P = .007)、苦痛は有意に低かった(苦痛温度計: 中央値, 20.85; 95% CI, 21.60 – 20.10; P = .03)。 不安と抑うつの変化はITTの集団では有意ではなかった(HADS: 中央値, 21.28; 95% CI, 23.02-0.45; P = .15)。 後で介入を受けた対照群ではQOLが改善していた 。
【結論】インターネットによるストレスマネジメントプログラムSTREAMは、実施可能性が高く、QOLを改善する効果がある。。
コメント
本研究の意義は、インターネットベースのカウンセリングというだけではなくて、多くの研究が行われているような、対象が術後患者やsurvivorsではなく、特に心が脆弱になっている診断直後のがん患者を対象(8週間)としていることであり、貴重である。 Primary endpointはFACIT-Fで測定した疲労関連QOLであり、MIDの見積もりが結果に大きな影響を及ぼすが、本研究では文献を基に、個人間とグループ間のいずれも7-9 pointに設定していた。 さらに実施可能性の評価にはthe System Usability Scaleという尺度を用いていることが目新しい。 また、baselineに行うBeck Depression Inventory suicide itemにより、自殺企図の可能性がある患者にはすぐに電話で連絡を取る配慮を行っている。 インターネットベースのプログラムの場合はこのような配慮は重要である。 また、本研究では対照群はactive controlではなかったが、このような研究にはattention biasなど様々なバイアスが入りうるため、対照群に対する介入の設定には注意が必要であることも考察している。 今後、このようなインターネット介入の需要は益々増加すると思われ、わが国における研究の蓄積も待たれる。(SK)
<2018年6月 文献紹介>
症状モニタリングはがん患者のQOLを改善し、予後を延長させる
Basch E, et al. Symptom Monitoring With Patient-Reported Outcomes During Routine Cancer Treatment: A Randomized Controlled Trial. J Clin Oncol. 2016;34(6):557-65..
【背景】がん治療中の患者の症状をモニタリングすることへの関心が高まっている。 しかし、臨床アウトカムに対する症状モニタリングの効果を証明したエビデンスは少ない。 Basch Eらは、インターネットを用いた症状モニタリングの有用性を検証するランダム化比較試験を実施した。
【方法】2007年9月から2011年1月に、米国のがん専門施設であるMemorial Sloan Kettering Cancer Centerで進行固形癌に対し治療を行っている患者を対象とした。 通常管理群と12種類の症状(食思不信、便秘、咳嗽、下痢、呼吸困難、排尿障害、倦怠感、ほてり、嘔気、嘔吐、疼痛、神経障害)をweb経由で報告する介入群とに割り付けられた。 介入群では、対象者が症状を重篤と報告した場合や悪化と報告した場合にはアラートメールが担当看護師へ送信され、症状マネジメントが実施された。 また、介入群の担当医は、患者が外来受診した際に症状モニタリングの経過をプリントアウトされた用紙を受け取り、患者と情報を共有した。 主要評価項目は6か月目のEQ5Dのスコアで、副次評価項目は救急外来受診率、入院率、生存率であった。
【結果】 対象は766人で、EQ5Dのスコアは通常治療群よりも介入群は改善していた(34% vs 18%)。 スコアが悪化した患者割合も介入群で少なかった(38% vs 53%, p<0.001)。 救急外来受診率(34% vs 41%, p=0.02)、入院率 (45% vs 49%, p=0.08)とも介入群で良好で、介入群は化学療法を長く実施できていた(8.2 vs 6.3か月, p=0.002)。 そして介入群では75%の患者が1年後も生存していたが、通常管理群の生存率は69%であった (p=0.05)。
【結論】がん治療における症状モニタリングは臨床的に有益であると考えられた。
コメント
本ランダム化比較試験の長期予後の結果も既に報告されており、全生存期間は介入群が31.2か月であった一方で、通常管理群は26.0ヶ月で(p=0.03)、ハザード比は0.83 (95%信頼区間 0.70-0.99; p= 0.04)であった(Basch E, et al. Overall Survival Results of a Trial Assessing Patient-Reported Outcomes for Symptom Monitoring During Routine Cancer Treatment. JAMA. 2017;318(2):197-8.)。 がんに対する3大治療である手術、化学療法、放射線療法ではなく、症状をモニタリングすることで、EQ5Dのスコアを改善させ、大きな予後延長効果が得られることが示された。 本結果は単施設での結果であったため、現在、National multicenter trial (NCT03249090)が実施されている。 また興味深いことに、コンピュータを使ったことがない人の方がより症状モニタリングの効果が大きいことも本研究により明らかになっている。 本邦の高齢がん患者は、米国と比べ、よりインターネットへの暴露は少ない環境で暮らしていると考えられる。 また本邦では、医療機関へのアクセスが米国と比較してコスト的にも容易である。 インターネットを介した症状モニタリングが、米国と同様に本邦のがん患者にも有益な効果を示すのか、検証的試験の実施が期待される。(NT)
<2018年5月 文献紹介>
訪問による作業療法は高齢者のQOLを改善させる
Imanishi M, et al. Quantifying the effect of home visit occupational therapy on the quality of life of elderly individuals. Asian J Occup Ther 2017;13:1-6.
【背景】日本は現在65歳以上が全国民の23%であり、2030年には30%に上昇すると推測されている超高齢化社会である。 高齢者にかかる医療費も増大しており、厚生労働省は高齢者を病院でなく在宅で医療を行う指針をあげている。 リハビリテーションにおいても同様で、在宅訪問リハビリが行われているが、このような在宅リハビリが、患者のQOLの向上に役立っているかは明らかでない。
【方法】2013年5月から2014年5月に、12の訪問サービスセンターで在宅医療を受けている65歳以上の患者を対象とした。 この集団を訪問による作業療法を行っていた作業療法群100名と作業療法以外のサービスを受けていた非作業療法群100名について比較検討を行った。 アウトカムは1年後のADLを示すFIMと高齢者QOL尺度であるPhiladelphia Geriatric Center Morale Scale (PGC)の変化率とした。 認知機能を示すMMSE24点以下の患者は除外された。
【結果】 1年間を通じて死亡などで訪問サービスが続かなかった患者は64名おり、アウトカムの検定は残りの136名で行われた。 患者特性としては2群間で年齢、教育年数、性別、要介護度、疾患、職業、趣味の有無、信仰の有無、家族構成が比較された。 このうち、作業療法群で有意に趣味がある患者が多かった。 アウトカムに関しては作業療法群でQOLを示すPGC、ADLを示すFIMとも有意に改善していた。
【結論】訪問による作業療法は高齢者のQOL、ADLを改善させることが明らかとなった。 今後も続く高齢化社会において、訪問作業療法は重要になってくると思われる。
コメント
背景にもあるように、現在日本は先進国の中でも超高齢化社会となっている。 厚生労働省はこのような社会構造の中で、患者をできるだけ在宅でみるという地域包括ケアを推進している。 HP上には地域包括ケアの最終目標は「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができる」ことと明記されており、これはまさしくQOLの概念に通じると思われる。 しかし、この地域包括ケアシステムでのQOL研究は少ない。本論文は訪問作業療法を題材にしているが、これも地域包括ケアシステムの一部でしかない。 今後はより大きな視点での地域包括ケアシステムを題材としたQOL研究が国内から発信されることを願ってやまない。(TNo)
<2018年4月 文献紹介>
小児がんの若年成人生存者における健康関連QOLと心理的苦痛および治療、教育、人口統計学的要因との関連
Janne F. Halvorsen, et al. Health-related quality of life and psychological distress in young adult survivors of childhood cancer and their association with treatment, education, and demographic factors. Quality of Life Research. 2018; 27: 529-537.
【目的】小児がんの若年成人生存者における健康関連QOL(HRQOL)と心理的苦痛、診断後5年以上の治療、教育、および人口統計学的要因との関連性を調べることを目的とした。
【方法】対象者は、Cancer Registry of Norway(CRN)から集めたがん生存者群(n = 91)と、大学生から募集されたコントロール群(n = 223)である。 HRQOLとして Pediatric Quality of Life Inventory (PsdsQLTM)4.0および心理的苦痛としてHopkins Symptom Checklist-10(HSCL-10)を使用した。 PsdsQLの値が高ければHRQOLが高く、HSCLは得点が高いほど苦痛レベルが高いことを示す。 苦痛のカットオフポイントはStrandらが推奨する1.85に設定された。 生存者群は女性56名(61.5%)、男性35名(38.7%)、平均年齢は24.71±2.77歳(20-29歳)、診断から平均9.21年(SD = 3.80)経過しており、診断時の平均年齢は15.50歳(SD = 3.83)であった。
【結果】 生存者群のHRQOLは、身体的機能を除いて、コントロール群と同じであった。 特に、生存者群の女性ではPedsQLの身体的機能得点がコントロール群よりも有意に低かった(p=0.024)。 生存者群の属性とHSCLのカットオフポイント以上の値に有意な関連があった(p=0.09)。 生存者群はコントロール群と比較して、HSCLの平均値は高かった。 HSCLのカットオフポイント以上において、生存者群はコントロール群よりもPedsQLの身体的機能得点が有意に低く(p=0.017)、総PedsQL得点も低かった(p=0.030)。 教育水準の低さと頭蓋内放射線治療を組み合わせると、HRQOLが低くなることを予測した。 年齢(HRQOLのみ)、女性、教育水準の低さ、経済状況の低さは、HRQOLと苦痛を予測する変数であることが分かった。
【考察】生存者において、強い苦痛症状がHRQOLに影響しやすいという事実は、先行研究でも証明されている。 苦痛とHRQOLを、長期的に測定、評価し、フォローアップすることが重要と考える。 生存者の女性では、PedsQLの身体的機能得点がコントロール群よりも低かった。 この結果は、女性の生存者が一般的女性よりも影響を受けやすく、治療における脆弱性が起因となっていることを示している。 生存者群において、低い教育水準と頭蓋内放射線治療の組み合わせが、HRQOLの低下を予測した。 これは、教育水準が低く放射線治療を受けた生存者が、HRQOLに関してより脆弱である可能性を示唆している。
コメント
PsdsQLは世界で広く活用されており、日本語版に翻訳したものもある。 一般的には、5~18歳の子どもに使用でき、今回はVarniらが開発した18~25歳を対象とした調査票を使っている。 生存者において、活動量の低下や生活上の負担感が継続していることが分かった。 最近の知見で、25歳以前に診断されたノルウェーのがん生存者が、経済的に依存し失業するリスクが高いことを報告しており、教育水準や経済的状況等が治療後のQOLと心理的苦痛に大きく影響することを改めて感じた。(HR)
<2018年3月 文献紹介>
補助療法を受けている高齢がん患者のQOL:システマティックレビュー
Cheng KK, et al.: Quality of life of elderly patients with solid tumours undergoing adjuvant cancer therapy: a systematic review. BMJ Open. 2018 Jan 24;8(1):e018101. doi: 10.1136/bmjopen-2017-018101.
【目的】高齢がん患者のQOLを測定することは、治療選択や治療効果を評価するうえで重要な要素と認識されつつある。 このシステマティックレビューの目的は、高齢がん患者の補助療法中及び補助療法後のQOLに関するエビデンスを要約することである。
【方法】2016年までに、CINAHL plus, CENTRAL, PubMed, PsycINFO 及びWeb of Scienceに報告された研究を系統的に検索した。 研究の選択基準は、stage Ⅰ-Ⅲ期までの固形がんを有する高齢者(65歳以上)に対する補助化学療法もしくは放射線療法が施行され、QOLの評価がなされたランダム化比較試験あるいは非ランダム化比較試験とした。 含まれている研究の不均一性と不十分なデータのために、結果は話術的に組み合わされた。
【結果】 ランダム化比較試験4件、非ランダム化比較試験14件、1785名を対象とした。 4件のランダム化比較試験におけるバイアスのリスクは、ほとんどの項目で低~不明であったが、検出バイアスは高であった。 非ランダム化比較試験14件の内、5件の研究では全てのドメインにおけるバイアスのリスクは低~中等度であったが、残り9件の研究では少なくとも一つのドメインに深刻なバイアスのリスクが認められた(注:バイアスのリスクを構成するドメインとして、選択バイアス、情報バイアス、交絡がある)。 バイアスの多くは選択バイアスと交絡に認められた。
高齢乳がん患者の多くでは、QOLのおける有意ではない負の影響は一過性であった。 高齢神経膠芽腫患者では、temozolomide 加療中ではQOLの有意な上昇を認めたが、放射線治療後にはQOLの有意な低下が認められた。 前立腺がん、大腸がん、子宮頸がん患者においては、補助療法期間中、ならびにその後の経過観察期間において、QOLが安定、あるいは改善する一定の傾向が認められた。
【結論】本レビューでは、固形がんを有する高齢がん患者に対する補助化学療法や放射線療法は、多くの場合、QOLに有害な影響を及ぼさないことが示唆された。
コメント
筆者らも考察で言及しているが、このような結果が得られた要因の一つとして、高齢がん患者の補助療法への肯定的な認識と治療への適応があげられる。 年齢とwell-beingを検討した研究では、50歳以上の特徴としてphysical healthの低下に直面した場合でも、全般的なwell-beingと前向きな感情は上昇することが報告されている。 また高齢者の安定したQOLは、レスポンスシフトにより説明されるとする意見もある。 問題として挙げられるのは、現在使用されているQOL尺度の感度であり、現存の尺度が本当に高齢がん患者のQOLを正しくとらえられているのかという問題がある。 EORTC-QLQ-ELD14など高齢がん患者特異的尺度も開発されており、今後これらを使用した評価が必要になるであろう。 高齢化がすすむ本邦においても、高齢がん患者の治療選択に役立つ情報が得られるよう、臨床研究を通じたQOL評価が重要になる。(TNa)
<2018年2月 文献紹介>
EORTC QLU-C10D(がん特異的QOL尺度QLQ-C30由来の多属性効用値測定尺度)のオーストラリアの効用値ウェイト
King MT et al: Australian Utility Weights for the EORTC QLU-C10D, a Multi-Attribute Utility Instrument Derived from the Cancer-Specific Quality of Life Questionnaire, EORTC QLQ-C30. Pharmacoeconomics. 2018; 36: 225-238.
【背景】EORTC QLU-C10Dは、広く使用されているがん特有のQOL評価尺度であるEORTC QLQ-C30に由来する新しい多属性効用値測定尺度である。 QLU-C10Dは、4つのレベルを持つ10の次元(身体、役割、社会、情緒、痛み、疲労、睡眠、食欲、吐気、腸の問題)からなっている。 費用効用分析に使用するためには、国別の評価セットが必要である。
【目的】この研究の目的は、QLU-C10Dにオーストラリアの効用値ウェイトを提供することであった。
【方法】オーストラリアのオンラインパネルは、性別と年齢別の集団代表性を保証するために割り当てられた。 参加者は、16の選択肢ペアからなる離散選択実験(DCE)を完了した。 各ペアは、QLU-C10Dの2つの健康状態に余命を加えたものである。 QALYフレームワークを得るためにパラメータ化された条件付ロジスティック回帰を用いてデータを分析した。 効用値ウェイトは、各QOL次元レベルの係数と平均余命の係数との比として計算した。
【結果】 1979人のパネルメンバーが参加し、1904人(96%)が少なくとも1つの選択肢ペアを完成し、1846人(93%)が16のすべての選択肢ペアを完成させた。 次元の重みは一般的に単調なものであった。 各次元内のレベルが低いほど、一般に効用の低下の幅が大きくなった。 選択に最も影響を与えた次元は、身体、痛み、役割および情緒であった。 中等度の影響を有するがん関連の次元は、吐気および腸の問題であった。 疲労、睡眠不足、食欲不振の影響は比較的小さかった。 最悪の健康状態の値は-0.096となり、死よりも幾分悪かった。
【結論】この研究は、EORTC QLQ-C30で収集されたデータを費用効用分析に前向きにも後向きにも適用できるQLU-C10Dに設定された最初の国別バリューセットを提供するものである。
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EORTC QLU-C10D の正式名称はEORTC Quality of Life Utility Measure-Core 10 dimensionsであり、同じ研究チームによって2016年にQuality of Life Researchで発表されているものである。 本研究はそのUtilityを測定できる強力なツールがまさに実用的になったという点で意義深い。 とくにベースをEORTC QLQ-C30にしている点もがん患者を対象とした領域において今後の活用を広めるものになるに違いない。 次元別では、身体と痛みが大きなウェイトをもたらす結果となり、がん特有の症状は効用値の測定には大きな影響を与えないという結果になったことも興味深い。 とは言え、調査方法はオンラインでのDCEであり、容易にチャレンジできるため、日本でもこのような日本独自のスコアリングアルゴリズムが開発されれば、がん患者のQOLをEQ-5Dなどよりもより感度良く示すことができようになるのかもしれない。(NS)