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文献紹介:2022年
<2022年7月 文献紹介>
リアルワールドでのPROアドヒアランス
Title: Real-World Adherence to Patient-Reported Outcome Monitoring as a Cancer Care Quality Metric
Authors: Takvorian SU, Anderson RT, Gabriel PE, Poznyak D, Lee S, Simon S, Barrett K, Shulman LN.
Journal: JCO Oncol Pract. 2022 Jun 8:OP2100855. doi: 10.1200/OP.21.00855. Online ahead of print.
https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/OP.21.00855
【目的】:進行した固形悪性腫瘍の患者に対する患者報告アウトカム(PRO)の定期的な収集はエビデンスに基づく実践であり、質の高いがん治療の重要な要素である。しかし、リアルワールドでの実際の遵守は十分とは言えない。リアルワールドでのPROモニタリングへの順守とその可能性について明確にする。
【方法】:1つのアカデミック機関と2つのコミュニティ機関を含む国立がん研究所がんセンターから、匿名化された電子健康記録データを使用して、後方視的横断研究を実施した。対象者は2019年1月1日から12月31日まで全身療法を受けている肺がん患者とした。
主要評価項目は、患者個々のアドヒアランスであり、30日の期間内における受診時のPRO質問票(症状、機能状態、およびグローバルな生活の質の領域にまたがる)の回答率とした。解析には最小2乗回帰分析を用い、アドヒアランスに影響を及ぼす要因を同定した。
【結果】:2019年、1,105人の肺がん患者に対して18,604回の回答機会があった。対象の平均年齢は65.8歳、56.2%が女性、19.6%が黒人であった。患者レベルのPROアドヒアランスは、全機関で27.2%から70.0%の範囲であり、平均49.4%であった。高齢者(65歳以上)、および黒人またはアフリカ系アメリカ人は、PROのアドヒアランスと負の関連性が認められた。
【結論】:肺がんの治療を受けている患者のリアルワールドでは、PROのアドヒアランスには年齢および人種に基づく潜在的な格差を伴っており、精力的に実施された臨床試験でのPROモニタリングのアドヒアランスには及んでいなかった。これらは、アドヒアランスベースの品質を指標とした標準化レポートで対処できる実装ギャップを示している。
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がん治療中のPROモニタリングの有益性は、必ずしもリアルワールドを母集団とした対象群で検証されたわけではない。情報テクノロジー弱者において、PROモニタリングのアドヒアランスを高める工夫は、今後の課題となるであろう。(NT)
肺がん術後患者のePROモニタリング
Title: Patient-Reported Outcome-Based Symptom Management Versus Usual Care After Lung Cancer Surgery: A Multicenter Randomized Controlled Trial.
Authors: Dai W, Feng W, Zhang Y, Wang XS, Liu Y, Pompili C, Xu W, Xie S, Wang Y, Liao J, Wei X, Xiang R, Hu B, Tian B, Yang X, Wang X, Xiao P, Lai Q, Wang X, Cao B, Wang Q, Liu F, Liu X, Xie T, Yang X, Zhuang X, Wu Z, Che G, Li Q, Shi Q.
Journal: J Clin Oncol. 2022 Mar 20;40(9):988-996.
https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.21.01344
【目的】:肺がん術後の早期期間におけるpatient-reported outcome (PRO)を基盤とした症状管理の有効性と実現可能性を検証すること。
【方法】:肺がんと診断された術前患者を、PROを基盤とした症状管理群(介入群)と通常ケア群(コントロール群)に1:1にランダム割り付けした。全例が、肺がん術前、術後は退院まで毎日、退院後は週に2回、4週間までelectronic PROシステムを用い、MD Anderson Symptom Inventory-Lung Cancer module (MDASI-LC: 16項目の臨床症状と機能面6項目から構成、各項目は0-10ポイントでスコア化。スコアが高いほど症状、機能が悪い)を報告。
介入群では、疼痛、倦怠感、睡眠障害、息切れ、咳の5つの症状で4ポイント以上の報告があった場合に、外科医にアラートが通知される。コントロール群ではアラート通知は発生しない。主要評価項目は、退院時におけるMDASI-LCで4ポイント以上の症状報告件数。
【結果】:166例が登録され、各々の群に88例が割り付けされた。退院時における、閾値を超える症状報告件数は介入群で有意に少なかった(中央値 [4分位範囲]は介入群で0 [0-2]、コントロール群で2[0-3]、p=0.007)。退院から4週間後もこの差は保たれていた(介入群で0 [0-0]、コントロール群で0[0-1]、p=0.018)。介入群ではコントロール群に比べ合併症率が有意に低値であった(21.5% v 40.6%; p=0.019)。外科医がアラート発生の対応に要した時間は中央値で3分だった。
【結論】:肺がん術後患者におけるePROを基盤とした症状管理システムは、退院後4週間までの症状の発生件数、ならびに合併症を低下させる。
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現在、がん診療の様々な場面でePROを用いた症状モニタリングや症状管理が検証されている。肺がん手術というmajor surgery術後でのエビデンスとして興味深い研究である。(NT)
<2022年6月 文献紹介>
ロボット支援下食道切除術と開胸手術の2年後までのQOL
Two-Year Quality of Life Outcomes After Robotic-Assisted Minimally Invasive and Open Esophagectomy. MarcVimolratana et al. Ann Thorac Surg. 2021 Sep;112(3):880-889.
https://doi.org/10.1016/j.athoracsur.2020.09.027
【背景】:食道癌に対する食道切除術は高侵襲で高難度の手術である。近年、ロボットが各分野で臨床応用され、食道切除においても、ロボット支援下食道切除術Robotic-assisted minimally invasive esophagectomy (RAMIE)が普及しつつある。しかし、術式がQOLや疼痛へ与える影響は未だ明らかになっていない。
【目的】:RAMIEと従来の開胸食道切除術Open esophagectomy(OE)との術後2年後までのQOLの比較
【方法】:この前向き観察研究では、QOLをFACT-E、疼痛をBrief Pain Inventory (BPI)で測定された。FACT-Eは、FACT–General (FACT-G)とesophageal cancer subscale (ECS)の合計で、 FACT-Gは(1)physical well-being(2) functional well-being(3) social/family well-being(4) emotional well-beingから構成される。ECSは食道癌患者特有の嚥下、食欲、体重減少、呼吸困難、発声Qualityに関する質問で、5-point Likert scaleで回答される. Generalized linear modelを用いて共変量を調整して術式間の成績が比較された。
【結果】:RAMIE群は106人、OE群は64人が登録された。FACT-E は、OE群よりRAMIE群で高く(parameter estimate [PE], 6.13 95% CI, 0.92-11.34; P-adj = .051)、中でもECS (PE, 2.72; 95% CI, 0.72-4.72; P-adj = .022) と emotional well-being (PE, 1.25; 95% CI, 0.37-2.12; P-adj = .016) はRAMIE群で良好であった.疼痛においてもRAMIE群が優れていた(PE, −0.56; P-adj = .005)。
【結論】:RAMIEはOEと比較して、術後2年までの食道に関する症状、emotional well-being 、疼痛を含むQOLを改善させる。
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食道癌診療ガイドライン2022年版が公開され、パブリックコメントが求められている
https://www.esophagus.jp/pdf_files/esophageal_cancer_guideline_202205.pdf。「食道癌根治切除後のフォローアップ」という章の中に5年前に発刊された2017年版にない以下の記載が登場した。「食道癌根治切除後のフォローアップの目的は,(中略)QOL の評価と改善(中略)である。(中略)わが国においては,根治切除後の中長期に亘ってQOL を評価している施設は極めて少ない。」そして以下のコメントがある。「根治切除後の QOL の検討を定期的に行っている施設は,術後1年目でも13%にすぎず,5年後はわずか3%であった。わが国において,この点は認識を高める必要があると思われる。」
手術を含む癌治療分野においてもQOL評価の重要性は本邦でも認識されつつあり、大規模RCTのエンドポイントの一つとして採用されるようになってきた。本研究を詳細に検討すると、交絡調整方法や臨床的意義の検討の観点からはLimitationは存在する。しかし、今回と同様な観察研究や日常臨床においても、生存率や合併症といった従来型のアウトカムにPROを加えて検討してくことが、今後の臨床医には更に求められていくものと考えられる。(NT)
臨床アウトカムから一般的選好型アウトカム尺度へのマッピング:方法の開発と比較.
Alava MH, et al: Mapping clinical outcomes to generic preference-based outcome measures: development and comparison of methods. Health Technol Assess. 2020 Jun;24(34):1-68. doi: 10.3310/hta24340.
【目的】:マッピングに関する現在の方法を発展させて新たな方法を開発する。そしてケーススタディにおけるマッピングの性能をテストする。
【方法】:用いたデータセットは、選好型尺度(preference-based measures [PBM])から非選好型尺度(non-PBM)へのマッピングが行われた15データセットである。対象患者の疾患の種類は、頭部損傷、乳癌、喘息、心疾患、膝の手術、下肢静脈瘤である。マッピング先のPBMは、EQ5D-5Lが11例、-5L 2例、SF-6D 1例、HUI 3 1例であった。サンプルサイズは852-136,327に分布していた。開発を目指した方法は、直接マッピング(ベータ回帰混合)、間接マッピング(記述システムへのレスポンスのモデル化)、2つのPBM間の相互マッピング(EQ5D-5Lと-3L)である。
【結果】:マッピングにおいて、理論的に直線回帰は不適切であり、ケーススタディでもこれは確かめられた。適切な分布を伴う、様々な変形混合モデルに基づく弾力的な直接マッピング法が、すべてのPBMへのマッピングで良好な性能を示した。また、構成成分の予測には疾病の重症度を代表する共変量が必要であった。さらに、PBM間のマッピングでは、弾力的な双方向の間接法が良好な性能を示した。本研究の限界としては次の二つが挙げられる。一つ目は、ケーススタディがEQ-5Dに偏っていたことであり、二つ目は、複数のケースで概念の重複に欠けていたために間接法が試みられなかったことである。間接法は、複雑な記述システム(EQ-5Dの例では次元(dimension))を有するPBMでは実施可能性が低いと予測される。
【結論】:広く用いられている直線回帰は不適切であることが示された。混合モデルに基づくアプローチがすべてのPBMへのマッピングに適切であった。
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本論文は2020年発行ではあるが、英国のシェフィールド大学の医療技術評価(HTA)チームが複数年にわたり行った研究結果のサマリーであり、マッピングのガイドラインとして有名なMAPS声明や、ISPOR Task Force reportと並んで重要と考え、ここに紹介した。
臨床試験においては、patient-reported outcomes (PROs)としてnon-PBMが評価指標に入っていることは少なくないが、医療経済評価に直接用いることができる、EQ-5DのようなPBMが評価指標に入っていない場合も多い。そのため、費用効果分析を行う目的で、やむを得ずnon-PBMからPBMのデータへの変換、すなわちマッピングが試みられてきた歴史がある。しかし、その適切性(信頼性と妥当性)について十分な検討や議論が行われてないまま、HTAとそれに基づく政策意思決定に用いられているケースも少なくない。
マッピングとして、実際によく用いられている方法の一つが直線回帰であるが、本論文ではそれは不適切である、と結論づけられた。PBMでは、最高の健康度のアンカーが1、と決められており、non-PBMからのマッピングでは天井効果が発生することが少なくない。
一方、本報告では、適切な混合モデルの使用が良しとされた。実際、複雑な数学モデルの提案が数多く報告されている。しかし一方で、どれだけ複雑なモデルを用いたとしても、そもそも、マッピング前のnon-PBMの概念構造と、マッピング後に用いたいPBMの概念構造がかなり異なる(重複や欠損がある)ことが少なくないため、この概念的妥当性の課題は払拭されることはなかった(本報告では、限界、として記述されている)。将来的には、この概念的妥当性の課題も解決できるような、優れたレスポンスマッピングの開発研究が、さらに進められることが望まれる。(SK)
<2022年5月 文献紹介>
イギリス,フランス,ドイツの一般人口集団におけるPROMIS選好スコア(PROPr)とEQ-5D-5Lスコアの比較
Klapproth CP, Sidey-Gibbons CJ, Valderas JM, Rose M, Fischer F.
Comparison of the PROMIS Preference Score (PROPr) and EQ-5D-5L Index Value in General Population Samples in the United Kingdom, France, and Germany.
Value Health. 2022 May;25(5):824-834.
doi: 10.1016/j.jval.2021.10.012.
【目的】:PROMIS選好スコア(PROPr)は,費用対効果評価における健康効用値(Health State Utility; HSU)を算出するために開発された尺度である.PROPrは項目反応理論に基づいて開発されており,既存の尺度の限界を克服できる可能性がある.PROPrは7つの領域(認知能力、抑うつ、疲労、疼痛、身体機能、睡眠障害、社会的役割・活動への参加能力)から構成されている.PROPrとEQ-5D-5Lのスコアを計量心理学的に比較することが本研究の目的である.
【方法】:3つの国の一般人口サンプル(イギリス=1509,フランス=1501,ドイツ=1502)からPROMIS-29プロファイルおよびEQ-5D-5Lのデータを収集した.認知機能はPROMIS-29では評価されないため,推奨される線形回帰モデルで予測した.PROPrとEQ-5D-5Lの収束的妥当性,既知集団の構成妥当性,天井効果,フロア効果を比較した.
【結果】:PROPrの平均値(イギリス=0.48, フランス=0.53, ドイツ=0.48; P<0.01)とEQ-5D-5Lスコア(0.82, 0.85, 0.83; P<0.01)は、すべてのサンプルで同様の大きさの有意な差を示した(d = 0.34, d = 0.32, d = 0.35; P<0.01).この差は,性別,年齢などのいかなる条件によっても認められた.両スコア間のピアソン相関係数は、r = 0.74, r = 0.69, r = 0.72であった.PROPrの天井効果と床効果はともに軽度から中等度であったが,EQ-5D-5Lの天井効果は大きかった.
【結論】:PROMIS-29で評価したPROPrと EQ-5D-5Lはともに高い妥当性を示していた.PROPrはEQ-5D-5Lよりもかなり低いHSUスコアを示した.PROPrはEQ-5D-5LよりもHSUスコアが低く,QOLの測定に影響を及ぼす可能性があるため,ICERに与える影響などを今後の研究において調査する必要がある.
コメント
本論文はPROMISから効用値を算出するためのPROPrのスコアをもっとも汎用されているEQ-5D-5Lのスコアと比較したものである.メインの結果は,EQ-5D-5L に比べてPROPrのスコアの方が低く出るということと,天井効果が表れにくいというものであるが,この結果だけをもってPROPrの優位性を判断できるわけではない.PROPrのスコアの平均値が0.48-0.53であったことは,そもそもPROPrのスコアの範囲が-0.022-1であることを考慮すると,反応性が低く,医療のアウトカムとしての有用性がそれほど高くない可能性が危惧される.とくにICERを計算する際の影響は大きいものになる可能性がある.PROPrはまだアメリカのスコアしかないが,今後,各国での開発が進めば,各疾患領域における反応性や解釈可能性についても注目をしていく必要があると考える.(NS)