新着文献
一覧はこちら
文献紹介:2025年
<2025年1月 文献紹介>
Responsiveness and minimal important change of the Family Reported Outcome Measure (FROM-16)
Shah, R., Finlay, A., Salek, Allen, H., Nixon, S., Nixon, M., Otwombe, K., Ali, F., & Ingram, J. (2024). Responsiveness and minimal important change of the Family Reported Outcome Measure (FROM-16). Journal of Patient-Reported Outcomes, 8(1). https://doi.org/10.1186/s41687-024-00703-1
URL:https://jpro.springeropen.com/articles/10.1186/s41687-024-00703-1
【背景】:FROM-16は、患者の疾患が家族員やパートナーに与えるQOLへの影響(インパクト)を測定する一般的な家族QOL尺度である。本研究は、FROM-16の変化に対する反応性(どれだけ敏感に反応するか)を検討することと、最小重要差(MIC)を決定することである。
【方法】:イギリスのCardiffにあるWales大学病院とLlandough大学病院の外来でリクルートした患者とその家族員を対象とした。患者はベースライン時と3か月後時点に、EQ-5D-3LとGSQ(Global Severity Question:重症度)に回答した。家族員はベースライン時と3か月後時点にFROM-16に回答した。さらに家族員は、3か月後時点にGRC(Global Rating of Change:変化の評価)に回答した。
- 反応性は、分布に基づく方法とアンカーに基づく方法とで評価した。分布に基づく方法には効果量(effect size: ES)と標準化反応平均(standardized response mean: SRM)を用いた。アンカーに基づく方法にはROC曲線の曲線下面積(AUC)を用いた。FROM-16の変化量と患者の状態(EQ-5D, GSQ)には強い相関があることを仮説とし、検証した。
- MICも、分布に基づく方法とアンカーに基づく方法とで評価した。分布に基づく方法には標準偏差(SD)と平均標準誤差(SEM)を用いた。アンカーに基づく方法にはROC分析による算出と予測モデルに基づく算出を行った。
【結果・結論】:反応性の分析には、83組の患者・家族員から得られたデータを用いた。患者には15種類の健康状態があった(湿疹、関節リウマチ、糖尿病、潰瘍性大腸炎など)。FROM-16変化量は平均が-1.43(SD=4.98)で、ESは0.2、SRMは0.3と小さい効果量が示された。ROC-AUCは0.7以上と十分であった。患者の状態の変化に応じてFROM-16も変化しており、仮説が検証された。
MICの分析には、100名の家族員から得られたデータを用いた。分布に基づく方法ではFROM-16のMICは2.2(SDに基づく)ないし4.2(SEMに基づく)と算出された。アンカーに基づく方法では4.0(ROC分析に基づく)ないし3.1(予測モデルに基づく)と算出された。以上から、FROM-16のMICは4と結論付けた。
コメント
FROM-16という、家族員による報告型の尺度について、その反応性とMICを確認したという報告です。今回、2つの観点から、本文献をご紹介したいと考えました。
ひとつは、疾患や障害、もしくは治療等の介入によるfamily impactの定量化という観点です。疾患等が患者本人に与える影響(アウトカム)が重要であることは言うまでもありません。一方、治療等の介入の価値を考えるうえでは、患者本人のアウトカムだけでなく、健康格差の解消や医療費の削減等、様々な他の影響も考えることができます。そのひとつが家族への影響(family impact)です。これまでも、例えば認知症高齢者の周辺症状を改善させることが家族介護者の介護負担感を軽減させたり、アトピー性皮膚炎への心理教育的な介入によって家族員の健康関連QOLが向上したりというように、健康状態ごとに、様々な家族アウトカム(この例では介護負担感や健康関連QOL)が用いられてきました。FROM-16は、健康状態の種類を問わずfamily impactを定量化する指標として期待されます。
もうひとつは、先月の学術集会でも教育講演で取り上げられた(臨床)最小重要(有意)差です。この論文ではMICとなっています。用語として何を用いるかよりも、その研究内では何を算出しようとしているのかをあらかじめ定義して示すことが重要であり、この論文では「家族員自身が重要と考えられる家族員のQOLの最小変化量=閾値」と述べられていました。そのMICの算出方法については複数の方法を用いて丁寧に比較検討を行っています。GRCにおける変化の尋ね方や、個々の推定値の算出方法など、具体的に記載されており、資料として参考になると考えられました。
(SI)