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文献紹介:2019年
<2019年12月 文献紹介>
進行認知症患者における健康関連QOL:EQ-5D-5L および QUALIDの計測
Sopina E, et al. Health-related quality of life in people with advanced dementia: a comparison of EQ-5D-5L and QUALID instruments. Quality of Life Research (2019) 28:121-129
【背景】進行認知症患者における健康関連QOL(HRQOL)の測定は、困難を伴うが、説明を受けた上での意思決定にとって重要である。 こうした構成概念の代理評価は困難であるとともにしばしば自己申告によるものに比べて低く評価される。 認知症のQOLの正確な代理評価には、その人自身にとって重要な概念の同定だけでなく、使用された尺度の感度が関係してくる。 本研究の主目的は、2つの測定尺度(QUALIDとEQ-5D‐5L)の進行認知症患者のHRQOL測定における評価能力を比較することである。
【方法】クラスターRCTのネスト化されたサブ研究として、オーストラリアの20のナーシングホームに入所している進行認知症患者のベースライン、3,6,9、12か月での、代理(看護師)が記入したQUALIDとEQ-5D‐5Lの測定データを収集した。 HR-QOL計測スコアと経過を通じての変化の関係を調べるために、Spearmanの 順位相関、部分相関、および線形回帰を用いた。
【結果】ベースラインにおける284人の平均ウェイトは、EQ-5D-5L で0.004 (95% CI − 0.026, 0.033)、QUALIDで、24.98 (95% CI 24.13, 25.82)であった。 12ヵ月後では、115人の対象者が生存していた。 ベースライン及び観察期間におけるEQ-5D-5L とQUALIDスコアのウェイトの間には、中等度の相関がみられた(R = − 0.437; P <0.001,12か月時点)。 同じ観察期間でのQUALID と EQ-5D-5L も相関が見られた (R = − 0.266; P = 0.005)。 回帰分析もこれらの結果を支持していた。
【結論】この2つのQOL計測値が中等度の相関を示した一方で、EQ-5D-5Lは進行認知症患者のQOLのすべての側面をすべて把握できているようには思えないことから、われわれは、この患者集団にこの測定尺度を使用することを奨めることはできない。 QUALID は進行認知症患者のHRQOLを測定するには、EQ-5D-5Lよりもより適した尺度であると思われたが、これは選好に基づいたものではないことから、認知症ケアの経済評価への応用には限界がある。
コメント
そもそも、EQ-5Dは、そのディメンジョン構成から、認知症患者のQOLの測定には不向きなことは当然予測されるし、実際そうした結果の先行研究は多く見られる。 これを受けて、本研究では、進行認知症患者用の疾患特異的尺度であるQuality of Life in Late-stage Dementia (QUALID)を用い、EQ-5Dの比較と関連について検討している。
先行論文でEQ-5Dは認知症患者には使えないとされたのは、はEQ-5D-3L という5つのディメンジョンにつき3段階のレベルを用いた旧来のものであるが、新しく5つのレベルのEQ-5D-5Lが登場したことから、従来の3Lよりは使えるのではないかという期待があったものと思われる。 研究自体は、IDEAL試験というオーストラリアのナーシングホームにおける家族カンファレンスの進行認知症に対する介入効果を見る本研究のサブ研究という位置づけのものであり、さらにプロキシ版EQ-5D-5Lのフィージビリティ(QUALIDは、はじめからプロキシ評価)を見る目的もあったと思われる。 考察では、プロキシの問題について従来通りの議論が展開されているが、この研究がそこに新しい知見を付け加えているようには見えない。
また、QUALIDという疾患特異的尺度のスコアとEQ-5D-5Lのウェイトの間に中等度の相関があることから、QUALIDからマッピングで効用値が求められる可能性があるといった議論にもなっておらず、QALIDは進行認知症患者のQOLを感度良く捉えているが、選好に基づいたものでないことから、医療経済評価には使用できないというありふれた結論になっている。 QUALIDとは別の選好に基づく認知症に特異的な尺度も紹介されているが、QULIDをベースにそうした効用値が算出できるような疾患特異的尺度の可能性には言及されている。
しかし、疾患特異的尺度と効用値をみるEQ-5Dのような選好に基づく尺度を比較して、前者の方が後者よりその疾患のQOLをよく捉えているといわれても、それはそうですねとしか言いようがない。 単純に比較されるだけでは、EQ-5Dが可哀想な気がする。(SS)
<2019年7月 文献紹介>
患者の観点による疾患理解の概念生成における3つの方法比較
Humphrey L, et al., A comparison of three methods to generate a conceptual understanding of a disease based on the patients’ perspective. Journal of Patient-Reported Outcomes (2017) 1:9. DOI 10.1186/s41687-017-0013-6
【背景】FDAによって発表された患者報告アウトカム(PRO)ガイダンスには、PRO開発の基準が記載されている。 しかし、これらの基準には科学的でロジスティックな説明が要求されており、尺度開発のプロセスには長い期間と高いコストが必要となる。 ゆえに、従来からあるアプローチと並行して、より実用的な方法が必要となる。
【方法】英国のThe National Ankylosing Spondylitis (AS:硬直性脊椎炎) Societyの協力を得て、患者経験を聴取する3つの方法を比較した。 3つの方法とは、1)12人のAS患者への個別インタビューから概念を抽出する面接調査(concept elicitation: CE)、 2)16人のAS患者によるグループでの概念マッピング(group concept mapping: GCM)、 3)ASに関するオンラインチャットルームのソーシャルメディア・レビュー(social media review: SMR)である。 3つの概念モデルを作成し、比較し、得られたデータの幅と深さと、実用性と患者中心であるのかについて検討した。
【結果】概念モデル間で重複があり、症状の35%はどの方法によってでも同定された。 SMRソーシャルメディア調査ではほとんどの概念(23個)が同定され、次いで多い順にCE個別面接調査(18個)、GCMグループ調査(15個)であった。 8個の症状はGCMとSMRを用いた場合だけで同定された。 SMRでは、必ずしも詳細な情報が得られるわけではなく、深く掘り下げたデータの抽出は難しかった。 症状間の関係性に関する洞察は、GCMによる「概念マップ」として得られたほか、CE面接調査での効率的で詳細な聞き取り調査、およびSMRでの調査対象者の記述からも得ることができた。 実際の多様な投資はアプローチによって異なり、CE面接調査は最も資源を必要としたアプローチで、一方SMRは資源を最も必要としないアプローチであった。 GCMグループ調査とCE面接調査の参加者は、調査への高い関わり方が報告された。
【結論】本来のアプローチであるCE面接調査では、患者が経験している最も深い概念的な理解を得られた。 しかし新たな方法であるGCMグループ調査とSMRは、測定する概念を同定するために相補的アプローチを提供する。
コメント
FDAのガイダンスに提示されているPRO尺度開発をより実現しやすいように探求している。 論文の発表は2017年であるが、2018年のISOQOL学術集会で本研究が話題として取り上げていたので、紹介することにした。
本研究は尺度開発の効率化を目的とした、質的調査方法の比較検討というチャレンジングなテーマである。 しかし、その比較方法には疑問がある。3つの質的調査方法の対象は、CE面接調査対象者12人、GCMグループ調査16人、SMRは100人である。 抽出される概念数に違いが生じるのは、対象者数の違いも関係しているだろう。対象者数をある程度そろえて比較した場合には、どのような結果になるのか興味がある。
次に、FDAのガイダンスにも記述されている「理論的飽和(saturation)」という質的研究の手順には、本研究では一切言及されていない。 「理論的飽和」とは、これ以上対象を増やしインタビューしても新しい概念が抽出できないと考えられる状態である。 CE面接調査で、理論的飽和の検討が重要であることが本研究から、逆説的ではあるが、明らかにされたのではないだろうか。
結論として、相補的アプローチが提案されている。 近年、CQDAS (Computer Assisted/ Aided Qualitative Data Analysis)では、ソーシャルメディア記述を簡単に取りこみ、分析データとすることができる。 よって、CQDASを使用したSMRで広く情報を収集することが可能である。 SMRを用いてインタビューガイドを作成してCE面接を実施し、理論的飽和を検討すれば、研究資源面でも効率的で網羅的な調査が可能になるのではないかと考えた。(MK)
<2019年6月 文献紹介>
慢性重症患者とそのパートナーを対象としたコホート研究における心的外傷後ストレス症状が健康関連QOLに与える影響:年齢の問題
Wintermann GB, et al. Impact of post-traumatic stress symptoms on the health-related quality of life in a cohort study with chronically critically ill patients and their partners: age matters. Critical Care 2019:23:39. .
【背景】集中治療室入室患者は、退室後に心的外傷後ストレス症状(post-traumatic stress symptoms: PTSS)に悩まされることが報告されているが、まだその長期的な影響(特に心理的な影響)については明らかにされていない。 またPTSSは患者本人だけでなく、患者家族にも起きるとされており、患者-家族関係がそこに強く影響していると推測されるが、PTSSの発生頻度と重症度、患者-家族関係、長期的なQOLスコアの関連性は明らかではない。
【方法】集中治療室入室後にリハビリ病院に転院となり、その時点で集中治療後の影響と思われるpolyneuropathyもしくはmyopathyと診断された患者を対象とした。(ICU-acqired weaknessの診断基準) このなかで6日間以下の入室期間、3日間以下の人工呼吸期間、CAM-ICUで譫妄と診断された患者は除外された。 転院時、3か月後、6か月後の時点で患者、患者配偶者またはパートナーのPost-traumatic stress scale(PTSS-10), EQ-5D-3Lが収集された。 患者とその配偶者のスコアはそれぞれ依存しており、完全な個別情報ではない。 そこでActor-Partner-Independence Model(APIM)が解析に用いられた。
【結果】70人の患者、患者配偶者のデータが収集された。 PTSS-10でPTSSありと診断された患者は全体の17.1%。患者家族は18.6%であった。 PTSSとEQ-5D-3Lは患者自身と患者配偶者において正の相関関係がしめされた。 患者QOLと配偶者PTSSとの関連性については、患者が57歳以下であった場合にのみ、患者のEQ-5D-3Lスコアと配偶者のPTSS-10スコアの間に相関関係が認められた。 しかし、それ以外の年齢層については患者QOLと配偶者PTSS-10には相関関係を認めなかった。
【結論】患者だけでなく、患者配偶者も、ある一定数において集中治療後にPTSSをきたし心理的障害に苦しんでいる。 こういった患者、患者配偶者に対して、スクリーニング検査を行い、心理的な治療が必要である可能性が示唆された。
コメント
昨今、集中治療室入室患者の長期予後を改善するうえでICU-acquired weaknessという病態が注目されている。 敗血症や外傷など体に与えられる侵襲が末梢神経や筋肉細胞を障害することでこれが発症すると言われている。 ステロイドや筋弛緩薬の投与がリスクファクターである。一方で集中治療後の心理的な障害(PTSDの発症)も注目されているが、いまだその発症頻度やリスクファクターなどは明らかとなっていない。 集中治療は莫大な医療リソースが必要とされる。 本当に患者さんの長期的な予後、元通りの生活復帰につながっているのか?という臨床的疑問は常に集中治療医が持つものであるが、それを明らかにするのには多数の障壁がある。 本研究は長期的予後のアウトカムとしてEQ-5D-3Lを用い、患者自身と配偶者のPTSDとの関連性を明らかにしようとした研究である。 結果としては患者自身と配偶者の中でのEQ-5D-3LとPTSDのスコアであるPTSSとの関連は示された。 また患者と配偶者との関連性としては、患者EQ-5D-3Lスコアと配偶者PTSSが57歳以下の群で関連が示される結果となった。 57歳以下だけで示されたのは若年群のほうが、患者と配偶者との間により強い依存傾向があったためであると考察されている。 集中治療患者は長期リハビリを必要とするが、自宅退院の時点でもある程度の身体的心理的disabilityは残っていることが多い。 医療者は退院がゴールと考えがちであるが、患者にとって、また配偶者にとって自宅退院は医療機関のサポートがなくなった上で生活しないといけないという新たな環境のスタートでもある。 そういった環境においては患者のQOLは患者―家族関係に強く影響されることが予想される。 しかし一方で入院環境は患者を家族から時間的にも物理的にも切り離すものである。 そういった理由から、われわれ医療者は患者だけでなく、患者家族、家族関係もケアすべきなのであろう。 (TNo)
<2019年2月 文献紹介>
カナダの健康調整余命
Bushnik T, et al. Health-adjusted life expectancy in Canada. Health Rep. 2018;29(4):14-22. .
【背景】この1世紀において、カナダにおける出生時の平均寿命は大幅に伸びた。 しかしながら、これら生命の量の延長から生命の質の延長を推し量ることは不可能である。
【方法】QOLの指標である健康調整余命(HALE)は、1994/1995年から2015年までの4年ごとにNational Population Health Survey(NPHS)とCanadian Community Health Survey (CCHS)で定められた地域の家庭と施設住民を対象に調査された。 健康状態はこれら2つのカナダ国民調査を通してHealth Utilities Index Mark3(HUI3)によって測定され、余命の調整に用いられた。 対象とする地域住民の割合は人口統計に基づいて推計された。 健康状態のさまざまな側面が平均余命とHALEにどのように寄与したかを計算するために寄与領域を除いたHALEを計算した。
【結果】カナダではHALEは増加していた。とくに、男性側の大きな増加が、もともとあった男女間のギャップを埋める形となった。 平均余命に対するHALEの割合は男性ではほとんど変化しなかったが、65歳以上の女性ではわずかな改善が認められた。 女性に限ると、不健康部分を増加させた要因は移動の問題と痛みの増加であった。 施設住人を除けば、HALEの推定値が有意に増加し、平均余命に対するHALEの割合は高くなった。
【考察と結語】人々は長生きとなっているが、良い健康状態で過ごす年数については大きな変化はない。 カナダの健康余命の全体像を把握するには、家庭と施設の両方のデータが必要である。
コメント
本論文はカナダにおけるHALEの経時的変化を示したものであるが、健康状態の評価をHUI3というツールを用いたうえでHALEを算出している点が興味深い。 カナダではかねてよりHUI3を用いた健康関連QOLの国民調査が実施されている。 翻って、日本では健康関連QOLの国民調査が実施されていないどころか、健康寿命の健康の測定を「日常生活に制限があるか、ないか」という二分法により、健康と不健康に分けているだけであるため、そこから失われた健康寿命の背景や要因を発展的に探ることは難しい。 他方、女性のHALEが延長していないことやその背景に痛みの因子が関与していることはアメリカでも同様とされ、注目に値する。 日本でも同様の調査ができるようになれば、さまざまな健康状態に対してその予防や介入などの展開ができるようになるのではないかと考える。 いずれにしても、健康寿命という指標がより実感のあるものとして、何より科学的に用いられるようになるためには、健康を単なる日常生活のレベルの評価だけにとどめず、健康関連QOLを標準化された尺度で定義し、その解釈を科学的に行うことが求められていくように思う。(NS)
<2019年1月 文献紹介>
局所進行・転移乳癌のランダム化比較試験における患者報告アウトカムデータの統計解析:系統的レビュー
Pe M, et al. Statistical analysis of patient-reported outcome data in randomised controlled trials of locally advanced and metastatic breast cancer: a systematic review. Lancet Oncol. 2018(9):e459-e469. doi: 10.1016/S1470-2045(18)30418-2.
【背景】患者中心の医療では、個々の選好、ニーズ、価値感を尊重した意思決定がなされる必要がある。 このような認識の高まりから、ランダム化比較試験においてPROを評価項目に設定した研究が増加している。 しかし、PROデータの解析、解釈、報告に関するコンセンサスが形成されておらず、この結果、得られた結果を比較したり、明確な結論を導くことが困難になっている。 このシステマティックレビューでは、進行乳がんを対象としたランダム化比較試験におけるPROデータ解析の経時的な変化、質、標準化について検討した。
【方法】システマティックレビュー。PRISMAガイドラインを準拠。 2001年1月から2017年10月までに報告された、サンプルサイズ50以上の、進行乳がんを対象とした薬物療法に関するランダム化比較試験を対象。
【結果】66のランダム化比較試験が同定された。
・HRQoL評価の仮説が明記されていたのは、8試験(12%)のみだった
・解析方法には不均質性が認められた(例、縦断研究、もしくは横断研究)
・混合モデル解析、Wilcoxon検定、t-test、ANOVA、time to event、responder ratioなど様々な解析手法が用いられていた。
・多重解析を考慮し、統計学的な調整を実施した研究は6試験(16%)のみだった。
・臨床的な解釈を報告された研究は28(42%)だった。
・48の研究(73%)で欠測の扱いに関する記述がなかった。
【考察と結語】PROデータの解析には、多様な手法が用いられていた。PROデータの解析に関するコンセンサスの形成と標準化が必要である。
コメント
EORTCのQOLグループによる定期的なシステマチェックレビューで、前回は2016年のlancet oncolで公開され、本QOL/PROジャーナルでも紹介した。 今回はPROデータの解析手法、解釈、質にfocusしたレビューがなされていた。 ランダム化比較試験におけるHRQOLを含むPRO評価に関しては、EORTC内にSetting International Standards in Analyzing Patient-Reported Outcomes and Quality of Life endpoints Data for Cancer Clinical Trials(SISQOL)と呼ばれるコンソーシアムが設立され、評価の標準化やガイドラインの作成、推奨が開発されているようであるので、注視する必要がある。(TNa)