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文献紹介:2023年
<2023年5月 文献紹介>
Development of multivariable models to predict perinatal depression before and after delivery using patient reported survey responses at weeks 4-10 of pregnancy
Title: Development of multivariable models to predict perinatal depression before and after delivery using patient reported survey responses at weeks 4-10 of pregnancy
Authors: Reps et al.
Journal: BMC Pregnancy and Childbirth (2022)22:442; 1-11
https://bmcpregnancychildbirth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12884-022-04741-9
【背景】:周産期うつ病は妊娠数の約12%に影響をもたらすと言われており、複数のnegativeなアウトカムに紐づけられている。妊娠早期の変数を用いて、妊娠期および出産後の複数時点における周産期うつ病を予測するためのモデルは現時点では存在していない。
【目的】:妊娠早期における変数およびPROスコアを用いて、妊娠期および出産後の複数時点における周産期うつ病を予測するためのモデルの構築。
【方法】:前向きコホートデザインにて、参加者858名による妊娠4週-10週目での自己報告式の質問票(社会経済、既往歴、複数の精神的指標を含む)を用いて、産後3ヶ月にてフォローアップを実施した。主要アウトカムは妊娠期3ヶ月毎および産後2つの時点におけるEdinburgh Postnatal Depression Score (EPDS)で12以上のスコア(周産期うつ病の代理評価値)だった。5つの評価時点で12以上のEPDSスコアを予測できるよう、5つの勾配ブースティングマシンを学習させた。予測変数は3つのバリデーションされたpsychometricスケールから21個の変数を用いた。感度分析では、異なる予測変数のセットをそれぞれ分析した:i) 2つのpsychometricスケールから21個中17個の予測変数を用いた場合、および ii) 143個の社会経済および既往歴に関する追加の予測変数を用いて計164個の予測変数を用いた場合。
【結果】:本研究では、女性が妊娠4-10週間の間に、3つのバリデーションされたpsychometricスケールより構成された21個の設問にのみ回答することにより、周産期うつの個別化リスクを予測できる5つの予測モデルを構築した:PND-T1 (妊娠0〜3ヶ月)、PND-T2(妊娠4〜6ヶ月)、PND-T3(妊娠7〜9ヶ月)、PND-A1(出産後1)、およびPND-A2(出産後の遅発性発症)。C-statistics(AUC)は0.69 (95% CI 0.65-0.73)および0.77 (95% CI 0.74-0.80)だった。感度50%では全予測モデルにおいてpositive predictive valueが30-50%で、周産期うつ病の平均リスクの約2倍のリスクを保有する患者群を特定した。17個の予測変数を用いて学習させたモデルと164個の予測変数を用いて学習させたモデルにおけるモデルパフォーマンスは、21個の予測変数を用いて学習させたモデルと比較して改善しなかった。
【考察】:本研究で構築された5つの予測モデルは、早くて妊娠4週間での質問票への回答により、妊娠期3ヶ月毎(0~3ヶ月、4~6ヶ月、7~9ヶ月)および出産後2つの時点における周産期うつ病の発症を最小限に予測できた。これらのモデルを一般化するためには、外的バリデーションを得るのとともに、prospectiveに検証する必要性がある。
コメント
PROを個別患者の診療もしくはモニタリングを目的として診療現場に用いることは日本でも行われていると思われる。一方でPROを診療現場で用いる課題として一般的に、スコアの解釈や患者によって選択肢の距離感が異なるため個別化医療への活用として、スコアの解釈をどのように診療に反映するかが難しい、等が考えられる。今回の論文では、PROを含む患者の自己報告式質問票を一つ時点での活用に限らず、複数時点での周産期うつ病の予測のために活用しているのが特徴的である。予測モデルを構築することが、診療現場におけるPROの新たな活用方法の一つだと期待したい。また本論文でも指摘されているように、このような研究では予測モデルの構築では終わらず、構築した後に実際に診療現場でバリデーション・検証することが重要である。(ET)
<2023年3月 文献紹介>
A Standard Set of Outcome Measures for the Comprehensive Appraisal of Cleft Care
Title: A Standard Set of Outcome Measures for the Comprehensive Appraisal of Cleft Care
Authors: Allori AC et al.
Journal: The Cleft Palate–Craniofacial Journal 54(5) 540–554, 2017
https://journals.sagepub.com/doi/10.1597/15-292
【背景】:口唇口蓋裂患者では、整容(外見)、言語、飲食、社会適応面などの訴えを認める。また出生時から治療終了時まで、成長・発達を続ける。過去にもEurocleftなどの国際的なアウトカム研究が行われてきたが、さらに発展させていくには、標準化されたデータセットを収集することと、患者・家族にとって重要と考えられるアウトカムに着目する必要がある。本報告では、ICHOMによって策定された口唇口蓋裂用のstandard set of outcomesが紹介されている。
【目的】:口唇口蓋裂診療の全領域を網羅しつつ、医療資源の多寡にかかわらず世界中の多くの国・地域で持続的に収集可能で実用的な、standard set of outcomesの国際的なコンセンサスを得ること。
【方法】:4大陸・8ヶ国から28名の臨床医とデルファイ法の専門家などと、5名の患者・家族が参加した。2013年5月~2014年12月の間に7回のオンライン会議を通して、各アウトカムドメインごとの作業部会が協議のうえ草案を作成し、全会一致のもと最終版を作成した。アウトカム指標は可能な限り、医療者が評価したアウトカム(clinician-reported outcome)に加えて、患者報告アウトカムを指定するようにした。
【結果】:摂食、歯科口腔衛生、会話、耳科的な健康状態、呼吸、整容、心理社会、治療の負担感の各アウトカムドメインについて、評価タイミングおよび評価指標を指定した。
【考察】:本standard set of outcomesは、今後も継続的に更新されていく予定である。世界中の治療チームが標準化されたデータを収集することで、互いの結果を学ぶことができ、患者に提供する医療の質と価値を向上させることができる。
コメント
本文献は2017年と発表は少し古いものであるが、口唇口蓋裂診療における重要性を鑑みとりあげた。Standard set of outcomesとは、診療において収集することが推奨されるアウトカム指標であり、各疾患での策定が進められている。共通のアウトカム指標が収集されることで、施設間や国際的な比較が可能となり、メタアナリシスなどを通して、医療の質の向上が可能となる。ICHOMは、患者中心的なアウトカム指標を中心としたstandard set of outcomesの国際的コンセンサスを確立することをミッションとする団体である。
QOL-PROの観点から筆者が興味深いと感じたのは以下の3点である:①患者報告アウトカム指標として、口唇口蓋裂に疾患特異的な質問紙であるCLEFT-Qが、摂食、歯科口腔衛生、会話、整容、心理社会面で採用されている。②一方で、日本語版がまだないCOHIP、NOSEといった患者報告アウトカム質問紙が指定されている。③整容(外見)の評価では、これまでも規格化された写真をもとに複数人で評価する手法が検討されてきたが、検者間一致度が低く十分な信頼性がなかった。本setでは、整容は多分に主観的なものであるとの観点から、写真の記録は推奨されているがその評価方法は指定されておらず、患者報告アウトカムによる評価が指定されている。心理社会面だけでなく、整容性も究極的には患者本人でしか評価できないという考えが興味深い。
日本においては本setの認知度はまだ低い。今後も口唇口蓋裂診療において患者報告アウトカムを含めた本setの啓発が重要と考えられた。(HM)
<2023年2月 文献紹介>
EQ-HWB: 健康と幸福度(ウェルビーイング)尺度の開発及び鍵となる結果の概説
Title: The EQ-HWB: Overview of the Development of a Measure of Health and Wellbeing and Key Results
Authors: John Brazier, PhD, et al.
Journal: VALUE HEALTH. 2022; 25(4):482–491
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1098301522000833
【目的】:質調整生存年を推定するための既存の尺度の大半は健康関連QOLに限定されている。本論文では、健康と幸福度を包含する尺度であるEQ-HWB (EQ Health and Wellbeing)の開発の概説を示す。
【方法】:(1)概念枠組みによる質の保証された文献のレビューを通じたドメインの確立 (2) ドメインをカバーする項目の生成と選択 (3) 6か国(アルゼンチン、オーストラリア、中国、ドイツ、イギリス、アメリカ)の社会福祉の利用者、一般国民、及び介護者168人に対する質的インタビューを通じたこれら項目の表面妥当性(4)上記6か国の4000人の回答者に対する候補となる項目の計量心理学的テスト(古典的な因子分析および項目反応理論を使用)への拡張
【結果】:7つの高次のドメインにグループ分けされた計32のサブドメインが、文献から見出だされ、ドメインをカバーする97の項目が生成された。表面妥当性の検討により36項目が除外され、14項目が修正され、3項目が追加された。計量心理学的テストを行ったところ、64項目は欠測あるいは反応分布上の問題においてもほとんど差がなかった。概念モデルは中国を除いて確認され、ほとんどの項目については、項目反応理論上もすべての国で良好な結果を示した。エビデンスは2回の円卓会議においてステークホルダーに対して示され、最終的にEQ-HWB (25項目)および EQ-HWB短縮版 (9項目)に項目が選択された。
【結論】:EQ-HWB 尺度が、患者・社会福祉の利用者・介護者に影響を与える医療・公衆衛生・社会福祉の介入を評価するために、国際的に開発された。
コメント
QALY(質調整生存年)のQに相当する部分については、本研究会でもそれをQOL値と呼んでよいのかという論争があったが、現状ではEQ-5Dという選好に基づく尺度がほぼスタンダードとして用いられている。しかしこれは健康状態(のみ)を評価するものであり、たとえばQALYを用いて医療資源配分をする場合に、その射程が狭すぎるという批判が絶えない。具体的には、社会福祉的介入を評価するのは困難であるし、なにより介護の問題が反映できない。そこで健康のみならず幸福度(ウェルビーイング)も同時に測定できる尺度の開発が行われたという経緯がある。興味深いのはその開発の過程で主体をなしたのはPPIE(patient and public involvement and engagement: 我が国でも注目を集めているPPIにさらにエンゲージメントが加わった概念)の団体である点である。この尺度開発自体はオーソドックスな手順を踏んで行われており、計量心理学的テストでも妥当な結果を示していることから、今後使用される可能性が高いと思われる。
誰もが考えつくのは、福祉系にフォーカスした既存の尺度(ICECAP(文中に言及あり)、ASCOT(言及なし)等)をEQ-5Dと併用してもいいではという点であるが、やはり健康と幸福度を同時に一つの尺度で測定できるというのが売りのようである。またライバルとなりそうなAQoL-8D(福祉的な側面もカバーできることで有名)については、35項目もあり答えにくいこと、およびオーストラリア一国のみで開発された経緯を指摘し、一蹴している。
QALYに用いることを想定していることから、現在価値づけ(Valuing)が準備されているようである。ただこの時点で、コーピングに関する項目で、他の項目(抑うつ、不安、消耗等)と逆転現象がおきていることから、それへの対応について議論が生じている。つまり、逆転は何らかの方法で修正すべきなのかあるいは、コーピングという重要な現象をそのまま反映すべきかという意見の対立である。これは本研究会でも取り上げられるQOLを測定することと価値づけることのギャップを反映している面もあり、今後の議論の行方に興味がもたれる。(SS)
<2023年1月 文献紹介>
Reducing waste in collection of quality‑of‑life data through better reporting: a case study
Quality of Life Research (2022) 31:2931–2938
https://link.springer.com/article/10.1007/s11136-022-03079-1
本研究は、選好に基づく尺度であるEQ-5Dの報告について、現状でどのように効用値が報告されているかを検討し、その状況を改善し研究の無駄を省くための戦略を提案したものである。本研究は冠動脈疾患患者を対象とし、EQ-5Dを用いて算出された効用値に関する論文のシステマティックレビューの一環として実施され、効用値とその十分な統計的詳細が報告されているかどうかを検討し、一部の論文のデータがメタ分析に再利用できなかった理由を検討した。研究の無駄は、(1)除外された論文の割合とサンプルサイズ、(2)報告不十分な論文のレビューに費やされた研究者の時間とコストとして定量化した。
研究者らの検索により5942件の論文が見つかった。タイトルと抄録のスクリーニングで93%が除外された。379の論文のうち130の論文がEQ-5Dを使用していることを報告した。そのうち46%(60/130)だけが効用値と統計的特性を報告し、メタ分析が可能であった。また、タイトルや抄録にEQ-5Dが記載されている論文は67%にとどまった。サンプルサイズとして133,298名分のデータが報告不足のため除外された。研究者の時間の浪費は、3816ドルから13,279ドルと推定された。
このようにEQ-5Dから得られた効用値のデータの不十分な報告は、潜在的に有用なデータがメタアナリシスや医療経済評価から除外され、研究の無駄を生み出す。そして尺度についての不十分な記載も、その後除外される系統的レビューのための論文のレビューに費やされる時間が増えるため、無駄を生み出す。
これらの研究の無駄を減らすためには、EQ-5Dを用いた研究では、メタアナリシスでの再利用や医療政策のためのより確かなエビデンスを得るために、適切な要約統計とともに効用値を報告する必要がある。他の研究者が見つけやすいように、現在の報告ガイドライン(CONSORT-PROおよびSPIRIT-PRO Extensions)に沿って、タイトルまたは抄録でHRQOL尺度を報告することを著者に推奨する。また、先行研究のカタログ化や検索性を高めるため、尺度についてMedical Subject Headings (MeSH)に記載することが望ましい。
コメント
QALYsを用いた医療経済評価においてUtilityのデータは解析に必須であるものの、論文を検索しても有用な報告を見つけられず、mappingに頼らざるを得ない状況もある。この研究で推奨された基本的なUtilityの報告とガイドラインに準拠した論文化、適切なHeadingはわれわれが論文を書く際に意識すべきであることを再認識した。(T.I)