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文献紹介:2025年
<2025年12月 文献紹介>
Electronic Patient-Reported Outcomes With Vital Sign Monitoring During Trastuzumab Deruxtecan Therapy
The PRO-DUCE Randomized Clinical Trial
Yuichiro Kikawa, Yukari Uemura, Tetsuhiko Taira, et al
JAMA Netw Open 2025;8;(8):e2527403.
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2837627
【重要性】
HER2陽性転移性乳癌(MBC)に対する新たな標準治療である trastuzumab deruxtecan(T-DXd)では、QOL に影響する特有の有害事象がみられることがある。症状とバイタルサインを電子的に継続評価することで、これらの症状を早期に把握し対応することにつながり、QOL の改善に役立つ可能性がある。
【目的】
T-DXd 投与患者において、症状およびバイタルサインのモニタリングが通常診療と比較して QOL を改善するかどうかを検証すること。
【デザイン、実施施設、対象】
2021年3月1日〜2024年12月31日に、日本国内38施設で実施された多施設ランダム化比較試験。T-DXd 投与が適応となる HER2陽性 MBC 患者を、モニタリング群または通常診療群へ割り付けた。
【介入】
割付比は1:1。モニタリング群では、患者がスマートフォンまたはタブレットを用いて、週1回の症状報告と、毎日の体温・経皮的酸素飽和度を記録した。症状やバイタルが設定閾値を超えた場合、医療スタッフへアラートが送信された。
【主要評価項目と測定方法】
主要評価項目は、EORTC QLQ-C30 を用いて評価した24週時点の global health status(0~100点、値が高いほど良好)におけるベースラインからの変化。症状スケールでは高値は症状悪化を示す。副次評価項目には、機能・症状スケールの変化および生存アウトカムを含めた。
【結果】
111例の女性患者が登録され、モニタリング群56例(50.5%)、通常診療群55例(49.5%)に割り付けられた。平均年齢は57.1歳(SD 11.0)。ベースラインの患者背景とQOLスコアは両群で同程度であった。24週時点の global health status の平均変化は、通常診療群に比べモニタリング群で高く(平均差 8.0[90% CI 0.2–15.8]、P=0.09)、改善が示唆された。機能スケールでは、役割機能(平均差 10.0[95% CI 1.1–18.9])、認知機能(6.3[95% CI 1.1–11.5])、社会生活機能(10.9[95% CI 3.9–18.0])で改善がみられた。疲労はモニタリング群で低値であった(平均差 −8.4[95% CI −16.1〜−0.6])。一方、悪心・嘔吐は差がなかった(平均差 0.5[95% CI −6.2〜7.1])。生存アウトカムの有意な差は認められなかった。
【結論】
HER2陽性 MBC に対して T-DXd を受ける患者を対象としたランダム化試験では、電子的な症状およびバイタルサインのモニタリングは、QOL の維持または悪化の防止に寄与する可能性が示された。生存には影響しなかったものの、このモニタリング戦略は患者中心のケアを強化する手法になり得る。
【コメント】
本試験では、アクセライト社が開発した電子的症状管理アプリ「ヒビログ®」を用いて、日常の症状と体温・SpO₂を継続的に記録・モニタリングしている点が特徴である。ePRO を用いた症状モニタリングは、ESMO の PRO ガイドラインにおいて、癌治療中の患者に対しデジタルプラットフォームを用いて実施することが推奨されており、本研究はその戦略を乳癌領域、特に T-DXd 治療中患者に適用したものである。
T-DXd は HER2 low 乳癌を含む広い患者集団への適応拡大が進行しており、今後は転移再発のみならず周術期治療でも使用機会が増加すると予想される。一方で、T-DXd には薬剤性間質性肺疾患(ILD)という特徴的な有害事象があり、日本人はILD発症のリスク因子であることが報告されている。このようなリスクプロファイルを踏まえると、症状 ePRO と SpO₂ を含むバイタルサインのモニタリングは、ILD を含む有害事象の早期検知と早期介入を目指す一つのアプローチとして意義を有すると考えられる。
一方で、アラート発生時の対応は医療スタッフの業務負担増につながる可能性があり、アラートの頻度や優先度付け、対応プロセスの標準化など、実臨床への持続的な実装には課題が残る。著者らはこの点を踏まえ、AI を活用した新しいタイプの ePRO モニタリングを開発中であり、医療者の負担を過度に増やすことなく症状管理と QOL 向上を両立し得るシステムの構築が期待される。
本試験では、global health status や複数の機能スケールが介入群で維持・改善していたが、その背景として、実際にどのような臨床介入(受診タイミングの前倒し、支持療法の強化、T-DXd の用量調整・休薬判断など)が行われ、それらが QOL や機能維持にどの程度寄与したのかというプロセスに関する情報は限られている。この点は本研究の限界であると同時に、今後の重要な検討課題である。今後、ePRO/バイタルモニタリングが「どのような患者」に「どのような状況で」最も有用であるか、またコストや人的資源を含めた実装可能性をどう高めるかを検証することで、T-DXd 時代の患者中心の毒性マネジメント戦略はさらに洗練されていくと考えられる。(YK)
<2025年8月 文献紹介>
Use of the adult social care outcomes toolkit (ASCOT) in research studies: an international scoping review.
Rand S, Smith N, Welch E, Allan S, Caiels J, Towers AM.
Qual Life Res. Published online April 18, 2025.
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s11136-025-03958-3
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<2025年6月 文献紹介>
Value of Innovative Multiple Myeloma Treatments from Patient and Healthcare Provider Perspectives: Evidence from a Discrete Choice Experiment
Syeed S, Tan CJ, Godara A, Gooden K, Tang D, Slaff S, Shih YH, Ngorsuraches S, Chaiyakunapruk N.
Pharmacoeconomics. 2025 Apr;43(4):403-414.
doi: 10.1007/s40273-024-01459-8.
URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39643805/
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<2025年3月 文献紹介>
Patient reported outcome measures in clinical trials should be initially analyzed as continuous outcomes for statistical significance and responder analyses should be reserved as secondary analyses
Collister, D., Bangdiwala, S., Walsh, M., Mian, R., Lee, S. F., Furukawa, T. A., & Guyatt, G. (2021). Patient reported outcome measures in clinical trials should be initially analyzed as continuous outcomes for statistical significance and responder analyses should be reserved as secondary analyses. Journal of Clinical Epidemiology, 134, 95–102. https://doi.org/10.1016/j.jclinepi.2021.01.026
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0895435621000378?via%3Dihub
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その一方で、この論文の推奨通りに解析を行い、連続アウトカムの解析では統計的有意差が認められたが、二値アウトカムの解析で認められなかった場合、結果をどう解釈するのが適切かという疑問が残った。二値アウトカムの解析には十分な検出力が担保されていないということは忘れ去られ、統計学的な有意差は認められたが、臨床的な有意差は認められなかったという短絡的な結論に至ってしまわないだろうか。そして、結局は二値アウトカムの解析にも十分な検出力が担保される被験者数で研究を行う形が定着してしまわないだろうか。この問題を解決するために、検出力と解釈性を両立させた統計解析が求められる時代が来るだろう。(YH)
<2025年1月 文献紹介>
Responsiveness and minimal important change of the Family Reported Outcome Measure (FROM-16)
Shah, R., Finlay, A., Salek, Allen, H., Nixon, S., Nixon, M., Otwombe, K., Ali, F., & Ingram, J. (2024). Responsiveness and minimal important change of the Family Reported Outcome Measure (FROM-16). Journal of Patient-Reported Outcomes, 8(1). https://doi.org/10.1186/s41687-024-00703-1
URL:https://jpro.springeropen.com/articles/10.1186/s41687-024-00703-1
【背景】:FROM-16は、患者の疾患が家族員やパートナーに与えるQOLへの影響(インパクト)を測定する一般的な家族QOL尺度である。本研究は、FROM-16の変化に対する反応性(どれだけ敏感に反応するか)を検討することと、最小重要差(MIC)を決定することである。
【方法】:イギリスのCardiffにあるWales大学病院とLlandough大学病院の外来でリクルートした患者とその家族員を対象とした。患者はベースライン時と3か月後時点に、EQ-5D-3LとGSQ(Global Severity Question:重症度)に回答した。家族員はベースライン時と3か月後時点にFROM-16に回答した。さらに家族員は、3か月後時点にGRC(Global Rating of Change:変化の評価)に回答した。
- 反応性は、分布に基づく方法とアンカーに基づく方法とで評価した。分布に基づく方法には効果量(effect size: ES)と標準化反応平均(standardized response mean: SRM)を用いた。アンカーに基づく方法にはROC曲線の曲線下面積(AUC)を用いた。FROM-16の変化量と患者の状態(EQ-5D, GSQ)には強い相関があることを仮説とし、検証した。
- MICも、分布に基づく方法とアンカーに基づく方法とで評価した。分布に基づく方法には標準偏差(SD)と平均標準誤差(SEM)を用いた。アンカーに基づく方法にはROC分析による算出と予測モデルに基づく算出を行った。
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(SI)